「物」が語りはじめる文章を書く

近藤(2010)は、優れた文章を書く方法の1つとして「事物をして語らしむ」という方法を紹介している。例えば、思ったことを書きたいとする。しかし「悲しいと思う」と書くよりも、「悲しいと思う」ことを具体的に描写すれば、あえてそう書かなくても、よい文章になると言う。思ったことではなく、体験の中からでてくる思いつくこと、思い出すことを、具体的事例として描写することによって、心の中にわいてくる思いの言語化に努めるのである。


伝えたい思いを「物」に託す。さらに「人プラス物」で書くと、文章上の化学反応は協力となると近藤は指摘する。フォークソングの「神田川」の歌詞を例にひけば、マフラー代わりの「赤い手拭」、カタカタなる「小さな石鹸」、「三畳一間」の同棲生活といった事物の描写が、情緒豊かな語りにつながるというわけである。


心情は吐露しないで、抑制された文章でほとんどすべて描写で書く。そのほうが、心情が伝わるのである。抑制が効いたほうがよく届くというわけである。