社会をよくする投資とは何か

投資はお金を増やすことが目的だと考えているならば、社会をよくする投資と聞くと、きっと儲からないのだろうと思うかもしれない。しかし、鎌田(2024)は、社会をよくすることとお金を増やすことは両立すると主張する。会社の存在意義が社会をよくすることだとするならば、投資の目的は社会をよくすることだと言える。本来、投資を含めた金融とは、社会や経済を豊かにするための水脈のような存在だと鎌田はいう。鎌田が定義する「社会をよくする投資」とは、社会そのものに新たな価値が生まれるお金の流れである。経済成長を主目的とした社会ではなく、人の困りごとや経済成長を追い求めることで生じた社会の歪みを解決することで新たな経済領域を生む。社会課題を解決する結果として、社会全体の経済価値が高まるというわけである。

 

鎌田が主張するように、投資には、自分のお金を増やしながら社会をよくする力がある。しかし、人々の投資によって実際に社会を良くするためには、一人ひとりが投資を単なるお金を増やすための手段としかみていないような振る舞いをする金融市場のささやきに動じない自分なりの「投資観」、周囲に流されない自分らしさをもった長期投資を行う必要がある。せっかく投資をするなら、社会も、未来も、自分自身も豊かにする投資に出会ってほしいと鎌田はいう。そんな鎌田が警告を鳴らすのは、誤作動を起こしやすい金融市場に翻弄されてしまうことの危険性である。これは、株価を高めることが共通目的化し、投資の効率性だけが追求され、短期売買が誘引され、さらにレバレッジが濫用されるといったように、お金を増やすことだけを目的とした投資が存在するために起こってしまう誤作動である。

 

歴史を見れば、人々が物質的に豊かになることを目指した大量生産、大量消費による経済の拡大が翳りを見せ、また東西冷戦の終焉で資本主義のグローバル化が進み、余ったお金が投資マネーとして金融市場に流れこみ、金融市場の中で少しでも高い利回りを求めて動き回るようになった。こうして実体経済の中で循環するお金よりも、金融市場の中だけで増殖しようとするお金が増えると、経済の潤滑油であるはずのお金が、逆に、経済や社会を不安定化させる要因となると鎌田はいう。例えるならば、経済という海の中で金融市場という巨大なクジラが海の大きさ以上に大きくなろうとしているもので、金融市場という巨大なクジラが少しでも暴れると経済という海は荒れ、海の中の生態系(いわば社会)も崩れてしまうという。また、短期間で売買可能な株式市場では、株価が人の心の動きに左右され、欲望と恐怖が渦巻く中で株式市場が実体経済と乖離してしまうという。

 

数字しか見ない投資、お金を増やすだけの投資に陥ることなく、社会をよくする投資を実践するためには、投資が社会をよくする仕組みをよく理解し、長期的な視点から投資をすることが大切だと鎌田は説く。そもそも投資とは、いまお金を使わない人から、いまお金を必要としている人(会社など)にお金を託すことであり、そのお金は、未来に向けた何かのために使われ、リターンは、投資をした会社の経営者や社員の努力によって生まれるという。投資のリターンは会社が生み出す利益から得られるわけだから、社会をよくする事業を営んでいる企業に投資することが肝要である。であるから、株式投資をする際には、価格(株価)ではなく、「価値」に対して投資すべきである。リターンは価値から生まれ、株価は価値に収斂していくことを肝に銘じるべきだと鎌田はいう。

 

蒲田によれば、投資家とは、事業を行うためにお金を必要とする人や会社に出資をして、その事業の成功に貢献しようとする人々であって、自分のお金を増やすことだけを考えている人とは異なる。社会をよくする投資家は、社会をよくする会社を増やし、その成長を後押しすることでよい未来を作ることに貢献する。投資による経済リターンを求めながらも、社会をよくすることに投資の軸を持った投資観が重要である。現在、こうした投資軸、投資観による新たなお金の流れを作ろうとする動きは、ESG投資、ソーシャル・インパクト投資、独自の視点で社会をよくする会社を選定した個別株投資・投資信託といったジャンルに分類される。それぞれ、長所もあれば課題もある。並行して、会社自身も自社の存在目的を再定義し、自社の利益だけでなく環境や社会に対してプラスの影響を生み出そうと真剣に取り組み始めているという。

 

この両者がうまく噛み合うと、持続可能な社会、それを支える新たな資本主義の姿が見えてくると鎌田はいう。こうした中、社会をよくする投資で成功するために、鎌田は以下のようなアドバイスを送る。まず、投資とは大きな資金を使って短期に利益を稼ぐ手段ではなく、普通の生活を送る人でも少額から早く始められ、時間をかけて価値を増幅させるものであること。株価ではなく価値に投資すること。株価は短期的には期待と不安で上下に変動するものの、長期的に見れば価値に収斂していくからである。そして、複利と分散の経済法則を活用し、感情に流されず決めた投資方針に沿ってシンプルかつ淡々と行動すること、何よりも長期の視点を持ち、将来性のある会社の株価が下がった場合には投資のチャンスだと捉え、簡単に売らず持ち続けることである。

 

要するに、自分なりの投資観(軸)を大切にすることだと鎌田はいうのである。変化に動じない投資感を持つことは、自分らしい投資観を持つことであり、それを磨くものは、突き詰めれば謙虚さと感謝の精神なのではないかという。まとめると、社会をよくする投資とは、社会をよくする事業、活動にお金が使われ、それによって社会がよくなり、社会がよくなることで経済価値が増加することからリターンを得ることで、社会をよくすることとお金が増えることが両立する。一方、お金を増やすことのみを目的とする投資は、金融市場や社会を不安定にし、環境を破壊したり社会的不平等を増加させたりして、社会を悪くする。であるから、人々がみな、社会を良くする投資をすれば、社会が加速度的によくなっていくと考えられるのである。

文献

鎌田恭幸 2024「社会をよくする投資入門:経済的リターンと社会的インパクトの両立」ニューズピックス