価値主導型キャリアの時代

佐藤(2017)は、これからの時代に必要なキャリアの考え方として、資本主義やお金の役割がどう変わっていくかという視点を基づき、価値主導型のキャリア、すなわち資本主義から価値主義へと変化した後のキャリアのあり方についての議論を展開している。佐藤が主張する価値主導のキャリアとは、一言でいれば「自分の価値を高めておけばなんとでもなる」「お金のためではなく価値を上げるために働く」ということである。本当に価値を提供できる人は会社で働く必然性もなくなってきているともいう。なぜならば、社会が資本主義から価値主義に転換するならば、あらゆる価値を最大化しておけば、その価値をいつでもお金に変換することができるようになるからである。


では、価値主導のキャリアや価値主義でいうところの価値とは何か。これは既存の資本主義やお金の役割で考えるものとは大きく異なることを佐藤は示唆する。資本主義という大きな枠組みの中では、役に立つかという「有用性」のみを価値と認識し、それに基づいた自己利益追求のための売買が市場で行われ、利益を得られる者と得られない者に分かれていく。役に立てばお金が手に入るし、役に立たなければお金が手に入らない。そのような視点で成長してきた資本主義社会がいま限界を迎えつつあり、マネーゲームにさえ陥っていることを示す例は世界金融危機など枚挙がない。そして、いま起こっていることは、社会や経済の仕組みが分散化しており、資本主義経済のみならず、共有経済(シェアリング・エコノミー)や評価経済トークンエコノミー)が出現し、複数の経済圏が共存するようになってきたことだと佐藤はいう。これからの時代、私たちは、必ずしも資本主義の経済圏でのみしか活動できないわけではなく、自分がメインで活動する経済圏を選択することもできるようになるというのである。


このような新しい時代では、旧来の資本主義ではお金になりにくかった価値も、重視すべき価値として認識することができるようになる。例えば、資本主義の大枠でもっぱら認識されていたのは有用性という価値であったが、役に立つかどうかという視点ではなく、愛情、共感、興奮、行為、信頼など、個人の内面にポジティブな効果をもたらす価値、資本主義のように個人の利益を追求することが全体の利益につながるという考えではなく、初めから社会全体の持続性を高めようとする活動も価値があるものとして認識されることになる。つまり、有用性としての価値、内面的な価値、社会的な価値といったあらゆる価値を中心とする価値社会になっていく中で、私たちのキャリアも、お金の獲得を中心としてではなく、価値を中心にして、価値主導型で捉えるべきだというわけである。あらゆる価値は、それらがますます可視化されることにより、必要な時にお金に変換することが可能になるのである。


では、上記のような価値主導型のキャリアを歩むためにはどうすればよいのか。佐藤によれば、まず、「儲かること」ではなく、「情熱を傾けることができること」を仕事にするべきである。この世界で活躍するために、他人に伝えられるほどの熱量を持って取り組むことが大切であり、自分なりの個性やスタイルを追求し、その人でなければいけない、その人だからこそできる、といった独自性を追求することがそのまま価値につながり、熱狂的なファンも増えるというわけである。そのためには、一日中やっていても苦痛ではないこと、自分が心から熱中して取り組めること、自分自身と向き合った上で自分の情熱を発見し、自らの価値を大事に育てていくこと、そして、自分の価値の最大化につながる環境を選ぶことが大切である。これからの時代は、資本主義という1つの大きな枠組みの中での競争ではなく、自分なりの独自の枠組みを作れるかどうかの競争になっていくため、自分の興味や情熱と向きあい、自らの価値に気づき、それを育てていく、そしてその価値を軸に自分なりの経済圏を作っていくことが大切だと佐藤は指摘するのである。