シュレディンガー方程式をざっくりと理解してみる

シュレディンガー方程式は、量子力学の中でも核となる方程式である。この世の物質世界の根源ともいえる人間が直に認識できない微小の世界を扱う量子力学の世界の概念を直観的に理解することは容易ではない。そこで必要となってくるのが、数学的な理解である。つまり、微小の世界における物理的現象についてこれまでなされてきた数多くの観測事実に全く矛盾しない数学的表現が、その世界での真実を示していると理解するわけである。したがって、シュレディンガー方程式は数学的にも相当に高度であるが、量子力学の特徴を理解するのには数式を理解することが役立つため、高校数学の範囲での理解を可能にする竹内(2005)による解説に基づきながら、そのエッセンスをざっくりと理解してみよう。


まずもって重要なのが、多くの観測事実で明らかとなっている光や電子といった量子の「波と粒子の二重性」を数式に加味することである。そこで、量子のエネルギー E を波の振動数vで、そして量子の運動量 pを波長λによって表現することが出発点となる。その際に式の中に登場する定数がプランク定数hである。これで、振動数が自然数なので量子のエネルギーは、とびとびの値で表現される(粒子性)ことも表現できている。これらを、アインシュタインード・ブロイの関係という。


次に、波の性質を数学的に表現することが必要となり、これを波動関数と呼び ψ という記号で表す。波を数学的に表現するためには、三角関数(振動を表す)、複素数を用いた指数関数(増加や減衰を表す)を組み合わせる。数学的にやや難しいが、オイラーの定理を用いると、三角関数のsinやcosもネイピア数の指数関数に変換できるため、波動関数ψをわりとシンプルに表現できて、波の振幅Aと、ネイピア数の指数の肩に空間および時間の変数(xやt)および波の振動数や波長を載せたものの掛け算で表現することができる。竹内の解説では、空間の変数はxのみである。ここまでで、シュレディンガー方程式を導くためのお膳立てが整うことになる。


このようにしてできあがった波動関数ψを、空間xや時間tで偏微分することで方程式を導くわけであるが、竹内による解説では、xで偏微分した場合には、tを含んだ項が最終的になくなるため、「時間に依存しないシュレディンガー方程式」が導かれる。一方、tで偏微分すると、xもtも式に含まれるものとなるため、より適応範囲の広い「時間に依存するシュレディンガー方程式」が導かれることになる。そして、竹内の解説によれば、波動関数ψをxで偏微分するプロセスを通して、ψにある演算をすると「演算子」ψ = p ψ という関係が導かれるため、この「演算子」を「運動量演算子」と呼び、また、ψに別の演算を行うと「演算子」Φ = E Φ(Φはψからtを含む項目を取り除いたもの)という関係が導かれるため、この演算子を「ハミルトニアン」と呼んでいる。


次に行うことは、シュレディンガー方程式を用いて、量子の運動量pやエネルギーEを求めるという作業である。そのプロセスにおいて、量子の存在確率やら不確定性原理など、直観的には理解しがたい量子力学の本質にせまる議論が立ち現れてくる。例えば、運動量pを求める際に、波動関数ψの複素共約であるψ*を用いて、これらを掛け合わせて積分をとるという演算が登場する。このψ*ψは、数式的には波動関数の振幅の2乗を示すのであるが、これがいったい何の物理量を示すのかの意味について議論が巻き起こった。現在では、これは「ある場所xに電子(量子)が存在する確率(存在確率)」を表すと解釈されるようになったと竹内はいう。よって、ψ*ψの積分は量子のすべての存在確率を足したものであるから1(量子1つ)ということになる。ここから、光や電子は、量子1つ分として数式の中で表現できても、それは存在確率でしか表現できない(存在確率をすべて足し合わせて1つ)ことが示されるのである。


とはいっても、実際の観測で、電子(量子)の位置を正確に特定することは、微小世界であるがゆえに技術的には困難でも、原理的には可能なのではないかという疑問がわいてくるであろう。しかし残念ながらこれについても答えがノーとなることが数式から導かれるのである。なぜならば、シュレディンガー方程式で運動量pを求める際に用いるxとpの両方が含まれた式から、ΔxΔp が一定の数よりも大きいという不等式が導かれる。これはどういうことかというと、空間上の位置を微小にすると、運動量は無限大になってしまうし、運動量を微小にすると、空間上の位置が無限大になってしまうということである。また、エネルギーEと時間tの関係についても、ΔE Δt が一定の数よりも大きいという不等式が導かれる。エネルギーを微小にすると、時間が無限大になってしまうし、時間を微小にすると、エネルギーが無限大になってしまう。これが、ハイゼンベルグの不確定性定理である。これらの量が同時に測定できないと、ニュートン力学の範囲では物体の位置や運動量を正確に計算することができないのである。


要するに、シュレディンガー方程式をはじめとする量子力学の数式は、これまで膨大な数の研究者が行ってきたあらゆる観測事実と矛盾しない数式でわけであるから、実際の量子の姿を直に認識できない人間としてみれば、人間の用いる認識能力の範囲内では、その数式で示されていることが(現時点における)この世の中の物理世界の真実であると結論づける以外に他の方法はない。別の言い方をすれば、人間は認識可能な観察事実に矛盾しない数式を通じてしか微小世界の様子を認識できない。物理世界の根源的な姿であるがゆえ、この数式以上のことを人間が認識することはできないのである。ということは、その数式が持っている性質、その数式が表す現象についても、いかにそれらが人間の直観では理解不能なものであったとしても、真実であると結論づける以外にないわけである。