アインシュタインの特殊相対性理論をざっくりと理解してみる

竹内(2013)を参考に、数学のレベルとしては比較的平易だと言われているアインシュタインの「特殊相対性理論」をざっくりと理解してみよう。特殊相対性理論を理解するための1番大きなポイントは、「どの慣性系でも物理法則は同じ形で表される」という原理を前提として、ある慣性系で起こっている物体の位置や運動を他の慣性系でどのように表すのかについて、ニュートン力学古典力学で用いていた「ガリレイ変換」を用いることを止めて、「ローレンツ変換」を用いるというところにある。そのためにはまず、「ガリレイ変換」と「ローレンツ変換」の違いを理解する必要がある。


ガリレイ変換の場合、宇宙には絶対的な空間(3次元空間)があり、世界のどこでも時間は同じように流れているということを前提として座標変換を行う。よって、ある慣性系での位置や運動を他の慣性系で表す際でも、絶対座標と絶対時間を前提に変換がなされる。具体的には、(x, y, z)と(x', y', z')という異なる慣性系の空間ベクトル間の関係を、絶対時間と絶対距離の関数である速度(V)を考慮しながら表現する。そうすると例えば、ある慣性系に対して光速で動いている慣性系で同じ方向に光を発射したときの光の速さを当該慣性系から観察した場合、速度の合成が起こって光の速さが光速の2倍になる。しかし、これは観測事実と整合しない。つまり、光速の2倍で動くものの存在は実証的に認められていないので現実の世界と矛盾してしまう。


ローレンツ変換は上記のような矛盾を解消するために考案された座標変換である。ローレンツ変換では、光速のみを絶対(cという定数)と定め、その他の空間も時間も絶対ではないと仮定する。よって、1つの慣性系(座標系)での位置や運動を、他方の慣性系(座標系)に変換する際に、(x, y, z, t)と、(x', y', z', t')という空間と時間を合わせた4次元のベクトル間の関係を、c(光速)を考慮しながら表現する。そうすると何が起こるか。まず、時間に関していうと、ガリレイ変換では、どの慣性系においても時間の流れは同じ、すなわちL = t1 - t0とするならば、座標変換後もLは同じなのだが、ローレンツ変換では、L' = t'1 - t'0 を座標変換して、L = t1 - t0で表す場合、値が異なってしまう。例えば、動いている慣性系の時間が遅れることが数式で示される。そのため、時間の流れ方は宇宙のどこでも同じであるという前提が崩れ去ることがわかる。


そのからくりは、ローレンツ変換によって4次元時空の座標系の時間を、他の慣性系の時間に変換する式に、速さを光速で割った値が含まれるところにある。よって、ニュートン力学で扱うような世界では、速さを光速で割った値はゼロに近づくので、そのような値は無視され、変換後も時間はほぼ変わらない。しかし、速さが光速に近づくにつれてその値は無視できなくなり、変換に影響する。よって、動いている座標系の時間が遅れるというような結果が数式で出てくるわけである。そして、時間の遅れは実証研究でも確認されるようになり、ガリレイ変換が誤りであり、ローレンツ変換が正しいことが支持されるようになったのである。


また、物体の長さについても同じことがいえる。ある慣性系での長さ(距離)を、別の慣性系にローレンツ変換すると、式の中に同じく速さを光速で割った値が含まれるようになるため、速度が光速に近づくにつれて無視できない値となり、その結果、動いている慣性系での物体の長さが縮むということが数式で示される。これを、ローレンツ収縮という。さらに重要なこととして、ローレンツ変換によって動いている慣性系での時間の遅れや長さの収縮が起こるため、速度の合成が行われたとしても、合成された速度は光速に近づくことはあれ、決して光速を超えることはないという帰結がなされる(そうならないような変換式になっている)。これについても、先に説明したように計算結果として光速の2倍の速さが登場してしまうガリレイ変換は間違っており、合成された速さは決して光速を超えないようになっているローレンツ変換のほうが観測結果と整合的であることが示されるのである。


上記のようにローレンツ変換によって表現される現象は、従来の絶対空間、絶対時間を前提した空間では表現できない。例えば、時間tはもはや空間と独立した絶対的な座標ではなくなり、x, y, zの3軸に時間軸を加えた座標が必要となる。よって、特殊相対性理論を表現するために新たに考えだされたのが、ミンコフスキー空間である。これは、3次元の空間と1次元の時間を組み合わせた4次元の時空間である。ミンコフスキー空間を使うと、例えば、ローレンツ変換は、慣性系から慣性系への座標変換であるが、数学的には4次元の座標の回転として表すことが可能であり、虚数角の座標回転として表現できる。また、ミンコフスキー空間を用いて光の世界線を描くと、光速より速い領域として空間的領域を、光速より遅い領域として時間的領域を設定できる。前者については、この世の中に光速より速く動くものは存在しないので、その領域にあるものは参照点から距離的に離れていることを意味する。つまり空間的な領域だということである。後者については、光速より遅い領域の場合、同じ物体が参照点よりも過去にあるか未来にあるかを示唆するので、時間的領域ということになるのである。


ローレンツ変換が正しいという前提のもとで、ニュートン力学を修正していくと、相対論的力学が体系化される。そして、ニュートン力学は、相対論的力学の特殊ケース(速度が光速よりも十分に遅い場合)ということになるのである。ローレンツ変換では、時間の値は変化しうるが、光速を加味すると、変換しても変化しない固有時τを設定することができる。よって、4次元のミンコフスキー空間の中の物体の移動を記述するためには、x, y, z, t, という4つの変数が固有時τの関数だと見なすことになる。ローレンツ変換が正しいことを前提としてニュートン力学を書き換えることは、絶対的な定数である光速cを数式に反映させていく作業を伴う。そのようなプロセスで、エネルギーと質量との関係を数式化すると、かの有名な E=mc^2という式が導かれるのである。