重力の正体は粒子や波なのか、それとも全く別のものか

ニュートン万有引力の法則を発見したことにより、自然科学は劇的に発展した。しかしニュートンは、ただ万有引力があるといっただけで、なぜ離れた物体同士が引き合うのかについての理由を説明しなかった。したがって、古典力学においては、理由はわからないが離れた物体同士が引き合っているのが真実なのだと説明するにとどまり、観測事実による証拠があることを除けば、ロジックはテレパシーとかオカルトとさして変わらない。よくわからないが魔法のような力(=重力)が世の中に存在するのだというのにとどまるのではなく、なぜ、離れた物体同士が引き合うのか、そのような遠隔力の正体は何なのかを突き止めることが自然科学の使命でもある。


重力理論を解説する大栗(2012)は、このような話の他にも、重力には不思議なことがいくつもあり、重力理論は完成していないという。しかし、アインシュタイン相対性理論(相対論)によって遠隔力としての重力が生じる理由を説明し、その間接的な証拠も見つかっているという。そして、相対性理論と、現在のところそれとはかみ合わない量子力学とを融合することで、さまざまな力を統一的な理論で理解することが目下の課題であると考えられている。それでは、これまでの自然科学で分かってきた「重力の正体」とは何なんだろうか。あるいは何である可能性が高いのか。アインシュタインの理論から導かれる結論を先にいうならば、重力の正体は粒子や波なのではないかということになる。


大栗によれば、時間や空間が伸び縮みすることを前提としたアインシュタインの重力理論では以下のように重力が生じる理由を説明する。まず、アインシュタインの一般相対論では、物体の「質量」も空間を歪め、時間を伸び縮みさせ、それらの変化が、物体の運動に影響を与えるとする。例えば、紙のような2次元の世界を想定し、そこに円があるとする。その円に質量があると、3次元の世界において質量の分だけ紙が沈むもしくは凹むように2次元の世界が歪む。その際、欠損角が生じて、本来ならば360度であるはずの中心核が300度のように小さくなってしまう。つまり、空間が歪むことによって、本来あるべき空間の一部が失われているので、その分だけ、2つの物体が近づくことになる。大栗によれば、遠く離れた者同士を引っ張る重力という実体が存在するというのは幻想であり、アインシュタインが解き明かした重力の正体は、空間や時間の歪みであったのである。


さて、アインシュタインの相対論では光が中心的な概念となる。そもそも、アインシュタインの相対論は、電力や磁力がどう生じるかを説明する電磁気学の理論と重力を扱うニュートン力学の矛盾を解消する方向で確立されたものであり、その理論枠組みを用いると、光とは電場や磁場の振動が波のようにして伝わっているもので、電磁波の1つとして理解できる。さらにアインシュタインは、光が粒子であることも明らかにしている。つまり、電磁波は波でもあり粒子でもある。このような背景もあり、アインシュタインの理論では、時間と空間の曲がりが波となり、その波が光速で空間を伝わることで重力が生じることを予測したという。これを重力波と呼び、重力の正体ではないかと考えられる。また、光が波でもあり粒子でもあるのならば、重力の正体も波でもあり粒子(重力子)でもある可能性がある。


これまでの話で、重力とは何か、重力の正体は何かという問いが、空間や時間とは何か、空間や時間の正体は何かという問いに置き換わりつつあることが分かる。このような問いに答えるためには、宇宙を扱うの超マクロのレベルから素粒子を扱う超ミクロのレベルまでのすべてを、相対論や量子力学などを総動員して統一的に理解する必要があるが、相対論と量子力学は現在のところ矛盾した部分がある。そのような中で、この2つの理論を融合し、空間や時間とは何かという問いに答える統一理論として期待されているのが超弦理論であると大栗はいう。その超弦理論の研究で明らかになったホログラフィー原理によれば、重力に関する問いが空間や時間に関する問いに変化し、重力が幻想であることが分かるのと同じように、空間そのものもある種の幻想であって、より基本的な概念で置き換えられる可能性があるというのである。