世界の歴史で学ぶ資本主義

的場(2022)は、資本主義をテーマとする世界の歴史を概観することで資本主義の本質を炙り出す試みを行っている。資本主義とはあくなき利益を得るための社会制度で、勤勉と蓄積という精神が基点となるものだと的場はいう。資本主義が発達するためには、そのスタートラインに蓄積された資金が必要なわけであるが、最初の資金を蓄積することすなわち本源的蓄積を可能にしたのがプロテスタンティズムであり、そのような人々がいたのが西欧であったわけである。西欧で発生した資本主義はあくなき利益獲得を目的とする制度であったがゆえに、それが先進資本主義国を動かし、世界を征服し、従属させることで資本主義が普及していったのだと的場はいう。

 

また、基本主義の発展には近代国家の成立が欠かせない要件であったと的場は言う。資本主義は世界を文明化し豊かにするという側面があるが、一部の国家だけを豊かにするというシステムでもある。企業同士が競争し勝者と敗者が決まるように、国家同士が競争し勝者と敗者が決まるから富が偏在するのだという。こうして、資本主義の歴史は、世界の富を増大させる一方で、世界の貧困を拡大させた歴史でもあるのだという。とりわけ、国民国家というのは、資本主義が発展するための本源的蓄積を進めるための最適規模の市場圏であり、自由主義は資本主義の必然的論理であり、地球全体の市場を目指していく。つまり、資本主義はもとから世界資本主義としか成り立たないと的場はいうのである。

 

さて、資本主義が生み出した勤勉と節約の精神は、それまで支配的であった生産を拡大せずに単純に再生産を繰り返すという人々の考えを根本から破壊したと的場は説く。つまり、資本主義社会の登場とともに無限の成長が志向されるようになり、成長しないと不安な慌ただしい社会になっていった。要するに、資本主義は常に利益を獲得するために休むことなく動き続けるしかない社会なのである。それが、産業革命による機械化によって生まれた労働者の大規模な組織化すなわち分業体制を発達させ、農民を少しずつ土地から追い出して労働者をつくり、労働力を商品化することで資本主義が進展したという。19世紀初頭の西欧は資本主義の「本源的蓄積」の過程でもあり、イギリスでは、都市部の産業資本家が勝利し、封建社会を支えてきた地主の力が崩壊していく歴史でもあったという。

 

19世紀後半には、資本主義はそれまでのものとは変化し、帝国主義となったと的場はいう。帝国主義は資本主義の1つの段階であり、西欧諸国の資本は利潤拡大のために、安い金銀・原料・燃料・労働力および商品の輸出先を求めてアジア・アフリカに進出したのである。アジアやアフリカを植民地にして搾取し、そこから利潤を獲得するわけである。こうして資本主義は世界市場に進出し世界を支配することになるのだが、経済的支配にとどまらず、資本主義による文化的支配の時代でもあった。つまり、西欧の資本主義の歴史は未来のアジアがたどるべき模範史となり、西欧文学は世界文学となり、西欧音楽は世界音楽、西欧芸術は世界芸術、西欧科学は世界科学となったのである。つまり、帝国主義のもとでは、銀行と産業資本が融合し、資本輸出がなされ、領土分割が行われた。帝国主義による支配は経済的支配のみならず、言語による文化支配もあった。

 

19世紀後半に現れた帝国主義国はイギリスのような国民国家帝国主義化していったものだと的場はいう。帝国主義とは、中心と反周辺、周辺というブロックを形成し、中心である宗主国が反周辺や周辺から搾取を行うことで利益を獲得していく宗主国の資本主義のための経済体制だという。帝国主義国は国民国家の延長線上に生まれたもので、中心国は産業資本ではなく金融資本が支配する独占的・寡占的資本主義国である。別の言い方をすれば、中心国では、自由主義的資本主義による自由競争がなくなり独占・寡占が進んだゆえ、競争メカニズムが機能しなくなるため、過剰生産となり産業が空洞化する。そのような状況では相対的に金融資本が強くなり、金融資本が利益を獲得し続けるためには、新たな市場や生産の地を植民地に求め、反周辺、周辺を作り出していったわけである。

 

帝国主義国は非資本主義地域や国を利用して、安価な原料や燃料を好きなだけ浪費し、豊かな生活を築き上げようとした。それが限られた非資本主義国を取り合う帝国主義国同士の対立に発展し、軍国主義としての資本主義経済となり、世界大戦につながった。その中で19世紀にはアメリカが資本主義大国として大きく成長した。第一次世界大戦で衰退した西欧の資金が大量にアメリカに流入し、自動車や住宅ブームを引き起こし、バブル経済が生起した。バブルが永遠に続くには、資金流入が永遠であり、その投資先があり、投資先企業の売り上げが伸び続けることが必要だが、過剰生産に対する過小消費は避けられず、バブル崩壊大恐慌に繋がった。そこでアメリカでは有効需要を国が創出するというケインズ流の国家主導経済統制が進んだが、これを的場は、資本主義が総力戦という国家独占資本主義体制に変化したという。

 

その後第二次世界大戦を経て、社会主義経済を打ち立てたソ連が中国や東欧を囲い込んで閉鎖的な経済圏を作り上げ、資本主義のアメリカ陣営と社会主義ソ連陣営が対峙する冷戦構造が生起した。資本主義側ではアメリカという世界最大の経済力の国による世界市場支配体制であるブレトン・ウッズ体制が成立し、戦後の世界経済を支えてきたが、ニクソンショックによりこれは崩壊した。これが、貨幣があれば消費が進み、それが経済を成長させると考える新自由主義を産むことで欲望をむき出しにした資本主義につながり、それが経済成長を加速させ、地球上の資産を食い尽くしていった。資本主義国は冷戦の雪解け(デタント)をきっかけに社会主義経済に対しても資金を供給していくことで閉鎖体制をも崩して資本主義市場に組み込むことで、社会主義国が借金漬けになって崩壊していったのだと的場は解説する。

 

的場は、社会主義圏の崩壊こそがグローバリゼーションの完成であり、資本主義の暴走の始まりだったと説く。冷戦が崩壊して資本主義の1人勝ちの様相となると、資本主義こそ普遍的なもので、永遠のものであると人々は思うようになったという。全てが資本主義体制に組み込まれ、その中で資本・商品・労働者の移動が完全に自由になる。1国だけの資本主義であれば、そこには必ず産業が必要で、産業資本による工場が必要だが、グローバル化が進めば、世界のどこかを産業資本の工場にして、そこに投資することによって経済が動く。つまり、金余りの国は安易に利益を獲得できるように海外の産業資本への金融投資に励むようになるため、それが国内では金融以外の産業の空洞化を招き、金融だけで豊かになっていく金融資本主義につながっていくと的場は説明する。

 

グローバル化によって世界が1つの市場となることで、有り余った資本がアジア・東欧・ロシアに投資され、安く能力の高い労働者を雇用し、停滞した先進資本主義国の経済成長を担っていった。それは中央を狙う新たな勢力としての半周辺帝国主義国を生み出し、とりわけアジアの成長は西欧的支配を変える新たな可能性の道を進んでいるのか、それとも単に西欧的支配にアジアが乗っているだけなのか、議論の真っ只中にある問題なのだと的場はいうのである。的場は資本主義の後のことをポスト資本主義と呼んでいるが、新しい未来社会を構築するためには、まず持って資本主義の本質を理解することが肝要なのであろう。

文献

的場昭弘 2022「資本主義全史」 (SB新書)