上場企業の意味と責任

村上(2017)は、上場企業の意味と責任について、日本では、そもそも上場とは何か、企業は何のために上場するのか、正確に理解している人が少ないように思うと述べている。村上によれば、株式を上場することは、英語で"Going Public"(非上場化は"Going Private")ということであり、私企業が社会の「公器」になることである。上場とは、株式が広く一般に売買されるようになることである。よって、上場企業の経営者には、決められたルールに従って株主や株を買おうとする人たちのために必要な情報を開示し、投資家の期待に応え続ける覚悟をもって、透明で成長性の高い経営をしなければならない。もはや、経営者が思い通りに株主を選んだり好き勝手を行うことはできなくなるのである。


上場にはメリットとデメリットがあると村上はいう。上場のメリットは、株式の流動性が高まって換金しやすくなることと、資金調達がしやすくなることである。この2つが必要ない場合には上場する必要はないと村上はいう。例えば、現金が豊富だったり設備投資が不要なために資金調達の必要がない企業や銀行からの借入余力が十分にある企業である。このような企業は上場のメリットを活かしているとはいえない。株式発行による直接金融で資金を調達する必要のない企業は、上場を廃止して非上場になることを検討すべきだという。一方、上場のデメリットは、IRなど必要な部署とその人材の確保、株主総会の招集通知など多くのコストがかかることと、誰でも市場で株式を購入できるわけであるから、いつ誰が自社の株主になるかわからないことである。「誰が買ってもいい=誰でも株主になれる」状態が経営上望ましくないのなら、上場をやめて非上場企業になるという選択肢を検討すべきだと村上は主張する。


上記のような上場企業の意味と責任から、上場企業においては投資家が経営者を監視する仕組みとしてのコーポレート・ガバナンスが必須となると村上は説明する。上場企業では、従業員や取引先などと同様、株主の立場や権利が重視されなければならないのである。公器としての上場企業に資金を提供することで、企業が生む利益のみならずリスクも全部背負っている株主が、投資した資産をいかに守るかということがコーポレート・ガバナンスの根源である。上場企業の経営者は、従業員を適材適所に配置しやる気を出させて効率よく働いてもらうことや良い取引先を見つけて良好な関係を築き、従業員に安定した生活をもたらすことの責任に加え、株主の視点をもって社員を引っ張っていくことが、企業価値すなわち株主価値を向上させていくうえで非常に重要なのだと村上は主張する。


コーポレート・ガバナンスのひとつの指標が、投下した金額に対して利益がどの程度生まれているかを示すROEである。企業がROEを高めるためには、当期純利益を高めるか、純資産を減らすかという2つの方法しかないと村上は解説する。つまり、利益を高める努力をするか、自己株式の取得や配当などで投資家に利益を還元していく努力が必要だということである。運転資金として手元に確保する必要を大きく超えた余剰資金をため込むのではなく、より高い利益を求めて積極的に投資に回すか、投資の機会が少ないのなら投資家に還元すべきだというのである。投資家は必ずその資金を成長のために資金を必要としている別の企業に投資する。そうすることで資金の好循環が生まれ、社会全体で資金が効率的に活用される。日本の多くの上場企業のように余剰資金を何も生み出さない状態で手元で寝かせてしまうと、それはそのまま塩漬けとなり、社会としても成長のために積極的に資金を必要とする企業に資金が回らず、市場は停滞し、経済全体が沈滞してしまうと村上はいう。


要するに、上場企業における株主と経営者の関係においては、株主はあくまで資金の出し手であって、投資先の企業が行っている事業の専門家ではない、その分野もしくは企業が成長すると期待し、法律で規定されている権限によって経営を託すのである。よって、経営者は、託された資金をいかに効率的に活用して成長していくか、事業のプロフェッショナルとして先を見通した計画を立て、できる限り情報開示をしなければならない。すべての株主が企業と平等にコミュニケーションをとり、株主と投資先企業がwin-winとなることが重要だと村上は説明するのである。