地政学とは何か

奥山(2020)は、地政学を「国際政治を冷酷に見る視点やアプローチ」としたうえで、国際政治を「劇」に例えるならば、地政学は「舞台装置」に例えることができるという。「劇」の裏側で、そのシステム全体の構造を決めているのは「舞台装置」であるから、国際政治の表面的な部分だけでなく、その裏にある各国の思惑を理解するためには地政学の考え方を身に着ける必要があるというのである。地政学は、アジア、中東、ヨーロッパという3大エリアでの衝突に関係する国のふるまいの研究でもある。世界的なニュースのほとんどは、これらのエリアに関わっているため、地政学を知ることは世界の情勢を知ることにつながるという。

 

上記の地政学の特徴をふまえ、奥山は地政学の6つの基本概念を説明する。1つ目は「コントロール」である。地政学は、国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考えるアプローチである。例えば、防衛、国際政治、グローバル経済などでの国の行動には、地理的な要素が深く関わっている。よって、地政学を活用することで、自国を優位な状況に置きながら、相手国をコントロールするための視点を得られるという。また、地理的な側面から国家のふるまいを検証する地政学を勉強すれば、国の本音を見抜くことができるともいう。

 

2つ目の基本概念は、「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」である。これは、突出した強国をつくらず、勢力を同等にして秩序を保つという国際関係のメカニズムで、例えば、1位の国が勢力を増した2位の国に対し、3位以下の国と協力しながら挟み込んで国力を削ぐような動きで、2位以下の勢力を均一化し、抵抗を不可能にするような戦略である。3つ目の基本概念は「チョーク・ポイント」である。地政学では、国から国、また、中東やアジアなどのエリア間の大規模な物流の中心は海路(ルート)であり、国家の運営においてルートは命綱であるため、このルートを通るうえで絶対に通る、海上の関所である「チョーク・ポイント」を押さえてルートを支配するという考えかたである。

 

4つ目の基本概念は「ランドパワーとシーパワー」である。ランドパワーユーラシア大陸にある大陸国家(ロシア、フランス、ドイツなど)で、シーパワーは国境の多くを海に囲まれた海洋国家(日本、イギリス、アメリカなど)で、人類の歴史では、大きな力をもったランドパワーの国がさらなるパワーを求めて海洋に進出すると、自らのフィールドを守るシーパワーの国と衝突するとう流れを何度も繰り返していると奥山は解説する。つまり、大きな国際紛争は、常にランドパワーとシーパワーのせめぎ合いで、ランドパワーとシーパワーは両立できない(交互に力を持つ)ということである。

 

5つ目の基本概念は「ハートランドとリムランド」である。ハートランドユーラシア大陸の心臓部で、現在のロシアあたりであるが、寒冷で雨量が少なく古代から文明があまり栄えなかった地域である。ハートランドランドパワーに分類される。リムランドは、主にユーラシア大陸の海岸線に沿った沿岸部で、温暖で雨量が多く、経済活動が盛んで、世界の多くの大都市があり人口も集中している地域である。アジア、中東、ヨーロッパという3大エリアがリムランドに含まれ、シーパワーの影響が大きい。他国に影響力を持つにはリムランドの支配が重要である。歴史上、厳しい環境のハートランドの国が豊かなリムランドにたびたび侵攻し、リムランドの国と衝突していると奥山はいう。リムランドは、ハートランドランドパワーと周辺のシーパワーの勢力同士の国際紛争が起こる場所だというわけである。

 

地政学の6つ目の基本概念は「拠点」である。相手をコントロールする際に、足掛かりとしてつくるのが拠点で、そこからレーダーで監視をしたり、軍隊を駐屯するなどして影響力を保持する。必要があればその影響に及ぶ範囲内に新たな拠点を築いて進行する。国と国の小競り合いを見ると、コントロールに必須の拠点争いが原因であることが多いのだと奥山は指摘する。

文献

奥山真司 2020「ビジネス教養 地政学 (サクッとわかるビジネス教養) 」新星出版社