会計×戦略思考の本質

大津(2021)は、「会計がわからなければ真の経営者にはなれない」という稲盛和夫氏の言葉を引用しつつ、会計の数値を企業活動と結び付けて考えることができる人ほど、会計を手段として使いこなすことができていると論じ、「会計✕戦略思考」というかたちで経営に役立つ会計スキルを身に着けるための考え方を紹介している。 

 

大津によれば、会計数値を定量的に理解し読み解く力を「会計力」と呼び、経営の外部・内部環境を的確に把握し、その企業が採用する経営戦略を定性的に理解することで企業活動を読み取る力を「戦略思考力」と呼ぶ。この会計力と戦略思考力は相互に密接している。なぜならば、企業活動があった結果として、会計の数値がつくられるのであり、将来の企業活動の計画があって、会計の予想数値が作られるからである。一方、会計数値を紐解くことで、企業活動をある程度類推することも可能である。

 

上記のように、経営戦略を紐解くことでその企業の会計数値の構造をある程度推測し、会計の数値を見ることで企業活動をある程度推測するという、原因としての企業活動と、結果としての会計数値の両者を往復することが抵抗なくできる人ほど、会計を実に有益なツールとして活用できていると大津は指摘する。そして、定量的な「会計力」と定性的な「戦略思考力」を結びつけるものが「論理的思考力」だと大津はいう。

 

企業活動と会計数値の往復をスムーズに行うための方法として、なぜそうなるのかという「WHÝ?」を考え抜き、そこから得られる結論を具体的な行動に結び付けることを考えることが重要だと大津はいう。企業活動と会計数値を照らし合わせ、「WHY?」を考え抜くことで、本質的な原因の解明を行ったら、そこから何が言えるのか、すなわち「SO WHAT?」を問いかけることで、解明された原因から本質的な経営の意味合いを導き出す。そして、どのように解決していくのか、すなわち「HOW?」を考え、意思決定・問題解決のアクションにつなげていくというわけである。

 

上記のように、会計✕戦略思考の最終的な目的は過去の分析ではなく、将来に向けた意思決定であることを理解することが重要である。将来の正しい意思決定を行うために、過去からしっかり学ぶことが不可欠ということである。会計数値の分析だけでアクションプランをすべて構築できるわけではないが、会計数値からのアプローチは、これまでのイメージと異なる真実を知り、意味合いを考え、次の打ち手を考えるための洞察力を与えてくれると大津は論じる。イメージを持つことは大切だが、イメージと数値が異なっていれば、正しいのは必ず数値なのだというのである。

 

会計✕戦略思考の具体的なトレーニングの方法として、大津は以下のようなものを挙げている。1つ目の方法は、決算書を見るまえに企業情報などから決算書をイメージして仮説を立て、その後、決算書を読むことで仮説を検証するというものである。決算書を見るまでにどこまで決算書をイメージできているかが、分析の深さとも結びついていくという。2つ目の方法はその反対で、決算書の数値から仮説→検証のプロセスを通して企業名を当てていくような方法である。この訓練を積むと、新たな事業計画を立てる際にも、どういった収益構造や利益構造を目指し、どのような投資や費用、資金調達が必要になるかを考える能力が身に着くという。

 

上記のようなトレーニングの際に、経営戦略やマーケティングなどの基本と、そこから導かれる収益構造や利益構造、バランスシート(BS)の内容などとの結びつきを理解することも重要である。その際、損益計算書(PL)を読み解く基本法則として「本業か、本業でないか」と「経常的か、特別か」という2つの軸でマトリクス構造に分解して理解すること、そしてBSを読み解く3つの基本法則として「大局観(BSは固まりで読む)」「優先順位(BSは大きな数値から読む)」「仮説思考(BSは仮説を立ててから読む)」を理解しておくことが有用だと大津は示唆する。

文献

「大津広一 2021「ビジネススクールで身につける 会計×戦略思考」日本経済新聞出版