市場の本質を理解して戦略の「勝率」を高める

森岡・今西(2016)は、ビジネス戦略の成否は「確率」で決まっており、その確率はある程度まで操作することができると主張する。つまり、戦略の確率を事前に知り、コントロールしやすい領域とコントロールできない領域を見分け、経営資源をコントロールできる領域へと集中させることで、成功確率を劇的に高めることができると論じるのである。では、それを可能にするのに最も大切なことは何か。それは、ビジネスが行われている「市場」の「本質」を理解することだと森岡・今西は説明する。目に見えている現象に惑わされることなく本質を洞察すること。なぜならば、「本質」によって構造が形づくられて、さまざまな「現象」が生まれてくるからである。そして、現象の幾重もの層の奥底に座っている「本質」は、ほとんどの場合は非常にシンプルな顔をしているというのである。


では、ビジネスの主戦場でもあり、資本主義の世界を形づくっている「市場」の本質とは何か。森岡・今西は、それは「人間の欲望」ではないかという。資本主義とは「人間の欲望」をドライバーにして形づくられている社会ではないかと。人間の「欲」をエネルギーとして使い、人間同士を競争させることで様々な発展と成長を生み出していくわけである。人間の欲を本質として資本主義社会は様々な複雑な社会構造を作り上げ、そして我々はその社会構造が生み出す限りなく多くの現象の中で生きているのではないかと森岡・今西は問いかける。その本質によって形づくられた市場構造を理解すれば、私たちは成功確率の高い企業戦略を選ぶことができるのだと指摘する。


森岡・今西によれば、市場構造を決定づけているDNA、あるいは震源ともいうべき本質は、消費者の「プレファレンス」(消費者のブランドに対する相対的な好意度もしくは好み)であり、それは「ブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンス」の3つによって決定されている。シンプルにいえば、市場構造を決定づけているのは、消費者のプレファレンスだということである。そして、消費者のプレファレンスによって決定づけられている購買行動の仕組みはどの商品カテゴリーにおいても同じだと指摘する。どの商品カテゴリーであっても市場構造の本質は同じであり、プレファレンスに拘束される消費者の購買行動という全く同じ規則に従って、それぞれのカテゴリーの構造が形成されているわけである。市場競争とはすなわち、1人1人の購入意思決定の奪い合いであり、その核心はプレファレンスである。企業が奪い合っているのは消費者のプレファレンスそのものなのだから、どの企業も消費者視点を最重視して、プレファレンスの向上に経営資源を集中せねばならないと森岡・今西は主張する。