経営学の基本を活用したクリエイティブ発想法

クリエイティブになるために「革新的なアイデアがひらめくにはどうしたらよいか」という問いに対し、森岡(2016)は、強いアイデアを生み出す確率を高める「イノベーションフレームワーク」について解説している。その要素の1つが、アイデアを生み出すポイントを絞るための「フレームワーク」であり、かつ、その中でもっとも重要なものの1つが、経営学の基本を利用した「戦略的フレームワーク」である。


この「戦略的フレームワーク」は、経営学を少しでも勉強したことがあるならば、あまりにも常識的であり、「何をいまさら」という反応が出てきそうである。しかし、実際、森岡のように具体的なクリエイティブ発想法として活用している人は少ないのではないだろうか。


森岡によれば、アイデアを生み出すにあたって、最初に最も大切なことは、何を必死に考えれば良いかわかっていることである。漠然と広すぎる可能性の中から、何の手がかりもなくアイデアを探すのは効率が悪すぎる。よって「フレームワーク」という道具を使って、探すべきアイデアの「手がかり(必要条件)」を推理して導き出すというわけである。魚釣りでいえば、どのポイントで釣り糸を垂らすかを決めてから、釣りを始めるのと同じである。アイデアを考えるにあたって「どこに宝が埋まっているか」に予想をつける戦略眼が「フレームワーク」の役割だと森岡はいうのである。


森岡が解説するフレームワークの1つである戦略的フレームワークでは、戦略を考えるときのフローを利用して、考えるべきアイデアの必要条件を導き出す。ここで何よりも大切なのは、最初に目的をよく考えて、明確に定義することである。そのうえで、その目的を達成するために、持っている経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、時間、ブランドなどの知的財産など)を何に集中するのかを選んで決める。この選択が戦略なのだが、戦略こそが生み出すアイデアの範囲を決める「必要条件」になっていることが重要である。戦略が決まったところで、考えるべき戦術(つまりアイデア)の範囲が絞れることになる。


このように、戦略的フレームワークでは、「目的」→「戦略(必要条件)」→「戦術(アイデアそのもの)」という順番で考えることによって、選択肢を合理的に絞っていく。それ以外を全く考えなくてもよい「捨てる領域」が明確になることで、最も宝が埋まっていそうなポイントに時間や努力を集中させるのに役立つと森岡はいう。しかも、方向性が絞れている分、戦略(必要条件)が具体的な発想の起点となってくれることが多いとも指摘する。要するに、無駄な場所をできるだけ掘らずに、その時間を掘るべき場所に使うので、それだけ早く宝を掘り当てる確率が上がるというわけである。