インクルージョン思考をマスターして難問を解決する

石田(2016)は、複数の問題を一気に解決するアイデア、つまり包括的(インクルーシブ)なアイデアをつくるために思考法を紹介している。これは「そもそもアイデアとは、複数の問題を一気に解決するものである」という発想に基づいていると石田はいう。そして、一定のルールに従えば、誰でも問題を一気に解決できるアイデアを思いつくことができると主張するのである。それは何かというと、「高次の目的を決めて旅立つ」「目的に沿って材料を集める」「異なる分野の材料をつなぐ」「発想を手放して、ひらめきとともに帰ってくる」という4つのステップである。


石田が示す最初のステップは、目的を明確にすることである。利他的でポジティブな目的をできるだけ具体的に設定する。そして、目的は高次でなければならないと主張する。問題は、その問題をつくったときと同じ考えのレベルでは解決できないという言葉が示すとおり、低次の目的であれば、妥協案や対症療法で適当に済ませてしまう可能性があるからである。問題を解決するためには、そのレベルを超えた高次の解決策でなければ、トレードオフとなっている複数の問題を一気に解決できないのである。そして、期限を決めることが大切である。締め切りはアイデアの母と言われるように、締め切りが迫って、追い込まれたときにアイデアが浮かぶものだと石田はいうのである。


次のステップは、目的に従って材料を集めることである。情報洪水の現代では、目的をリサーチの間も明確に意識し続けることだと石田は指摘する。そうすれば、普段、意識していながら気が付かなかったことも気が付くようになる。潜在意識を刺激するような嗅覚や触覚、味覚といった情報も価値が高いという。そして、アイデアを生み出す前には、情報を整理してはいけないと石田はいう。モヤモヤ感や緊張感が、インクルーシブなアイデアを生み出すための養分になるというのである。自分の情報を棚卸しておくこともよいという。例えば、これまでの人生で「おもしろいと感じたこと」や「衝撃を受けたこと」「感動したこと」「興味を持ったこと」など、潜在意識の中で眠っている材料が、リサーチで集めた材料と組み合わさって新しいアイデアに結び付くわけである。


第3のステップは、異なる分野のアイデアをつなげることである。例えば、あまり関係性がないと思われていたことに意外な共通点を見つけ出すよう努力してみる。ある具体的な物事を抽象化して、ざっくりと一般化してみる。それを、別の具体的なものにつなげる。物事の「構造」や「本質」を抽象化したうえで、異分野に共通点を見つけることが、インクルーシブなアイデアを考えるときに必要な要素だと石田は指摘する。


そして第4段階が、思考が煮詰まったらいったん「手放す」ことで、それが「ひらめき」とともに帰ってくるというプロセスなのである。「煮詰まる」とは「そろそろ結論が出る」という意味だから、ここまで来たらあとは何もする必要がないと石田はいうのである。思考には「慣性の法則」が働いているので、手放してみても無意識に脳は思考している。たとえば、何もしていない、ぼーっとしているときにこそ、アイデアを生み出すための脳内デフォルト・モード・ネットワークがオンになる。デフォルト・モード・ネットワークとは「ごちゃごちゃになった頭のなかを自然と整理する機能」である。デフォルト・モード・ネットワークの活動を通じて、頭の中の既存の要素を組み合わせたり、関連づけるという作業がなされている。だからこそ、手放すことで「ひらめき」が生まれるというのである。