永田(2012)は、成功する一握りの人々(トップ1%)だけが実践する共通の「思考の法則」として、循環システムとしての5Aサイクルを挙げる。これは、イノベーションを生み出し、育てる力に直結しており、言い換えればビジネスプロデュース能力の源泉である。ビジネスプロデュース能力を持った人は、起業家として自分でビジネスを創造することはもとより、経営の中枢に近づき、より高い報酬をもらい、企業人としてやりがいのあるポジションで仕事を楽しむことができると永田はいう。
永田が提唱する5Aサイクルとは、顧客の抱える問題の「認知」(Awareness)、問題解決のための従来と異なる「アプローチ」(Approach)、アイデアのスピーディな「実行」(Action)、仮説と実行結果の差異に対する「分析」(Analysis)、そしてマーケットニーズに合わせた柔軟な「適応」(Adjustment)である。やさしく言い換えるならば、チャンスを見つけ、構想を練り、実行した結果を見ながら、自らを修正するサイクルということになる。5Aサイクルを何度も回すことによって、そのビジネスはより強く、より精度が高く、より高い顧客価値を生み出していくという。
最初のAである「認知」すなわち市場機会の発見については、「チャンスは日常の風景の中にとけこんでいる」ことを忘れないことが大切だという。特に、顧客は、日常の光景にひそむ問題、顧客の「不安」「不満」「不便」といったネガティブなものを解消してくれるものにより多くの価値を感じるという。そして、問題解決のアイデアに、全く異なる「アプローチ」を組み合わせることも大切である。従来のビジネスモデルの逆を行く、異国、異業種、自然界など異なる世界にヒントを見つけたり、アイデアを転用、借用することがイノベーションにつながる。そして、誰よりも早く「実行」することである。より早く失敗するためにも「小さな実験」を繰り返す。そして「分析」においては、「想定していなかったもの」がどれだけ発見できたかが重要となる。そこから成功のヒントが得られるからである。そして、環境に対して柔軟に「適応」していくことが求められる。
永田はまた、5Aサイクルの中心軸は「理念」であるという。速く回転させるためには、強固な軸、ブレない軸が必要であり、それが「理念」だというのである。これは「顧客価値の創造と利益の追求」に関するものである。
ビジネスの試行錯誤と適応を繰り返しながら生存能力を磨いていくことが21世紀のハイパービジネスマンといえるのではないかと永田はいうのである。