「例外的成長企業」に学ぶ一時的優位性の戦略シナリオ

マグレイス(2014)は、従来の戦略論は「業界が最も重要な枠組みだ」「いったん確立された優位性は持続する」という2つの前提を置いているが、現在ではこれらの前提が成立しないため、今の時代には通用しないという。よって、競争優位性は一時的でしかないという立場をとる。このような立場から、ある一時的な優位性から別の優位性の波に乗り移るための新たな戦略的論理を提示する。つまり、瞬時に強みが崩れ去り、中核事業が消え失せるような環境において、つかの間の好機を迅速につかみ、かつ確実に利用する方法によって、優位性の再構成・再構築・更新を行い(新たな波を起こし)、一時的優位性の波をうまく管理するということである。マグレイスは、例外的に成長を続けている企業は、このようなプロセスを実行しているという。


マグレイスによれば、再構成・再構築のプロセスを通じて、企業の資産、人員、能力が1つの優位性から別の優位性に移行すると指摘する。これは、古い優位性から絶えず資源を引き上げ、新たな優位性の開発に投資する継続的な変貌を意味する。この際に、例外的成長企業は、安定性とダイナミズム(アジリティ)を両立させているという。一方では、企業の価値観、文化規範、中核戦略、能力、顧客との結びつき、リーダーシップは長期に渡って一貫している。また、人材育成や価値観の強化といったソフト面に相当の投資をする。他方、莫大な数の実験とイノベーションが行われ、現状を革新し、現状に挑戦している。つまり、イノベーションを進める力と、安定性を保つ力の相補性を維持できる組織体制を守るようなリーダーシップとマネジメントが行われているという。


また、例外的成長企業は、衰退の前兆をつかみ、うまく撤退しているとマグレイスは指摘する。例えば、イノベーションに対する収穫逓減、コモディティ化の進展など、衰退の早期警報を逃すことなく手際よく撤退することで、資源を他の場所に効果的に移すわけである。ここで重要になるのが、消滅しつつある優位性から資源を引き上げたら、新たな優位性を生み出すためにそれを活用する資源配分のプロセスである。その際、先手を打って競争力のない資産を捨て去る、事業部門の既得権を奪う、倹約する、所有せず利用する、外部資源を活用するなどの方法もある。資源配分のプロセスを支配することで、一時的優位性を有効に活用できる手際のよい組織をつくるカギなのだという。


例外的成長企業は、利用し尽くされた事業を脱して新たなビジネスチャンスに参入することで事業を再構成・再構築する方法を身につけ、結果的に安定性とダイナミズムを両立させてきたわけであるが、さらに、例外的成長企業は、イノベーションに習熟し、イノベーションを管理可能なプロセスと捉え、イノベーションを起こす明確で全体的な枠組みを持っているとマグレイスはいう。つまり、イノベーションは戦略の要であり、専門的に構築され管理されなければならない能力なのである。管理可能なイノベーションプロセスとは、アイデア実現の道筋を見つける「アイデア形成」、コンセプトの具体化と計画による「仮説」、実験と検証、ビジネスモデルの実行を通じた「育成」、商業化・立ち上げ・成長を通じた「加速」からなるものである。