組織を動かす人になるための戦略読書

三谷(2015)は、「私たちは読んだ本でできている」という前提のもと、自分の独自性を作り出すためにも、戦略的に読書をすることを勧めている。その中でも、組織を動かす人になるためのヒントとなる読書術が紹介されている。


三谷によれば、物事を動かすとき、力があるのは「ストーリーとファクト」である。つまり、ヒトは、ストーリーに感動し、ファクト(特に数字)を信頼するということである。この信頼と感動によって、ヒトや組織は、それまでの信念(旧弊)を変えて新しい戦略・新しい行動へと踏み出すのだという。そして、ストーリーは組織に合わせて作るものである一方、ファクトは多くの事例から収集が可能だと三谷はいう。よって、強い、普遍性のあるファクトを、本からの斜め読みで抽出する「発見型読書」を提唱している。


発見型読書として、三谷は5つの視点で、ビジネス発想につながるファクトを読み取る方法を紹介している。1つ目は、過去や他業界と対比して大局観を持つことである。過去の事例や他業界の話と「対比」することで、新しい情報への客観的なスタンスを築くことができ、賞賛記事にも批判記事にも流されることのない客観的・中立的な自分が持てるという。 2つ目は、これまでの当たり前を覆した「反常識」を見つけることである。これまでの常識を覆すような大きな変化・変革が起きているかどうかをファクトから読み取るのである。3つ目は、徹底的に「数字」にこだわることである。数字に注目し、足し算・引き算、時には割り算などを用いて、互いに矛盾はないか、次につながる本質はないかなどを読み取る。4つ目は、人より「一段深く」調べることである。そうすることで、意外に面白い情報に行き当たるという。そして5つ目は、得たものをちょっと「抽象化」して考える・覚えることである。抽象化して考えることで、その物事の本質が見えてくる。また、そういうレベルに昇華させて覚えることで、次に別の情報が出た時に、心に引っかかりやすくなるという。


その他、三谷の個人的な読書経験から、歴史小説によって、大きく時代が変わるときには価値観とともに体制や人材が過去のものになってくるが、その入れ替わりは簡単ではなく、生死を賭けた戦いが必要なこと、そして、その戦いを支える力こそが、他の目的を指し示す「ビジョン」であること、そして、「サラリーマンの心」を理解するために、サラリーマン小説を100冊読めと言われたことなどを紹介している。