良い戦略とはどのようなものか

ルメルト(2012)によれば、戦略の基本は、相手の最大の弱みの部分に、こちらの最大の強みをぶつけることである。別の言い方をすれば、最も効果の上がりそうなところに最強の武器を投じることである。企業経営に即していうならば、他の組織はどこも持っていないが自社は持っているものが生み出しうる価値に着目し、それをテコにして重要な結果を出すための的を絞った方針を示し、リソースを集中投下し、行動を組織するのが良い戦略だということである。つまり、良い戦略とは「一点豪華主義」であるといえる。

 

また、良い戦略は、狙いを定めて一貫性のある行動を組織し、すでにある強みを活かすだけでなく、新たな強みを生み出すことだとルメルトは述べる。視点を変えて新たな強みを発見することが重要だということである。状況を新たな視点から見て再構成すると、強みと弱みのまったく新しいパターンが見えてくるわけで、良い戦略の多くが、ゲームのルールを変えるような鋭い洞察から生まれているというのである。つまり、ルメルトによれば、良い戦略とは、自らの強みを発見し、賢く活用して、行動の効果を2倍、3倍に高めるアプローチに他ならないわけである。

 

ルメルトは、良い戦略にはしっかりとした論理構造があるという。その屋台骨となるのがカーネル(基本構造)である。カーネルは(1)診断、(2)基本方針、(3)行動の3つの要素から構成される。まず、診断では、状況を診断し、取り組む課題を見極める。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。そして、基本方針では、診断で見つかった課題にどう取り組むかの大きな方向性と総合的な方針を示す。そして、行動では、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動をコーディネートして方針を実行する。

 

どのように強みが生み出され活用されるかについて、ルメルトは、テコ入れ効果、近い目標、鎖構造、設計、フォーカス、健全な成長、優位性、ダイナミクス、そして慣性とエントロピーという9つを挙げている。その中で、ダイナミクスでは、変化のうねりに乗ることの重要性をルメルトは説いている。変化のうねりは、外部の様々な要素の変化が積み重なって形成される。このような変化のダイナミクスは、既存の競争環境を覆し、かつての競争優位を消し去り、新たな優位を生み出すという。このような変化のうねりが押し寄せるとき、まったく新しい戦略が可能となるのである。

 

こうした荒々しいダイナミクスを自分たちの目的に適うように活かすことがリーダーの役割であり、そのためには鋭い洞察力やスキルや創造性が必要になるという。うねりの気配を感じ取り、変化の原動力を見極め、うねりが来たら業界の構図がどう変わるかを見極め、これから高地になりそうな方向を狙ってリソースを配分し、上手に波に乗ることが望ましいという。つまり、うねりがやってくる時こそ、戦略がモノを言うというわけである。

文献

リチャード・P・ルメルト 2012「良い戦略、悪い戦略」日本経済出版社