世界一のビジネススクールで何を学ぶのか

ブロートン(2009)は、英国人ジャーナリストを経て、名実ともに世界一のビジネススクールといってもよいハーバードビジネススクール(HBS)に留学した経験から、まさに世界の財界を牛耳る卒業生を輩出してきたHBSにはどのような人が入学してくるのか、彼らがそこで何を行い、何を学んでいるのかの実態を、彼が感じた「不思議な居心地の悪さ」を踏まえ、冷やかな視点で記述している。閉じたインナーサークルを形成するビジネスの上流階級からすれば見れば当たり前と思える言動の数々が、アウトサイダーや一般庶民から見ると常軌を逸していたり狂気にすぎなかったする実態が巧みに描かれている。


このように、全体のトーンはシニカルなものであるが、著者の入学からコア科目、選択科目、就職活動など時系列なエピソードを束ねた構成となっており、ビジネススクールで学習する科目の具体的な内容も断片的にちりばめてあるため、教科書的な使い方もできなくもない。また、随所で紹介される有名人物のエピソードは参考になる。


例えば、元学長のクラーク氏は、自分の人生を4つの要素、すなわち仕事、家族、信仰、ゴルフだけに絞り込み、それぞれの活動を規則正しく実行する生活を守り抜いたことによってHBS学長にまで登りつめたのだと記述している。イーベイCEOのメグ・ウィットマンは、毎日、毎週末、生きている全瞬間、いま自分にとってもっとも大事なことな何かを問い続けたと語った。彼女の信条は「楽しめることをやること」「どんな仕事をやるにせよ、結果を出すこと」「学んだ教訓を体系化すること」「忍耐を忘れず、優秀な人や良い物事関わること」「チームをつくり手柄を共有すること」「一緒に働くのが楽しい人間になること」「自分が知らないことや理解していないことはちゃんと尋ねること」「自分についてあまり深刻になりすぎないこと」「自分の誠実さを妥協させないこと」だという。


マイクロソフトが財務戦略においてなぜ多額の現金を抱え続けるのかについては、多くの投資家が首をかしげ、会計士、資本家、戦略家などが財務諸表をもとにさまざまな解釈を試みていた。それに対してビル・ゲイツ本人がウォーレン・バフェット氏にパネルディスカッションで語った内容として「ただ友人たち(会社の仲間)に、まったく入金がなくても1年分の給料を支払えるだけの現金を銀行に預けておきたかった」と語ったことを取り上げ、彼が真実を語っていると思ったと述べている。ブロートン自身が友人と在学中に起業を試みたとき、すでに事業を手掛けていた彼のクラスケートは、起業のさいのビジネスモデルについて「ほとんどのアイデアは良いアイデアさ」としたうえで「その勝敗を分けるのは、それどどのように実行するかだ」といったと書いてある。


彼がHBSで学んだことについては、元教授の書いた学習モデルの詳述を引き、「人間の強さとは知的機能の強さ、精神の強さであり、それは事実を把握し、その事実をもとに知的で勇気ある行動をとる態度であり資質であり訓練である。強い意志を持つ者は、難しい問題に立ち向かおうという熱意がある。不慣れな状況にも果敢に取り組み、頑固な新しい現実から有益な真実をつかみとる。めまぐるしい変化は人生のパターン、しかも成功行動が基盤にすべき唯一のパターンだと知っているため、変化を恐れることがない。伝統の安易な指針や規則の遵守をよりどころにすることもない」という部分をHBSでの経験においてまさに実感していると記述している。


そして、アントレプレナーシップとは「現在、手中におさめている資源以上の機会のあくなき追求」であり「チャンスの存在に気づき、それをつかみとり、利益をあげること」であって、これはビジネスのみならず、自分の人生をコントロールする1つの方法だと述べている。また、上級競争戦略の最重要点は「誰もが目を開け、変化をもたらすパワーを持った文化を浸透させること。どんなことについてもつねにより良い方法を探し、けっして革新をやめないこと」だと述べている。