ビジネスプロデュースとは何か

三宅・島崎2015)は、小粒な新規事業ではなく、数千億円規模のビジネスを創造することを「ビジネスプロデュース」と呼ぶ。三宅・島崎によれば、ビジネスプロデュースとは「社会的課題を取り込み、それを解決する形での業界を超えた構想を描き、その実現に向けた仲間づくりをして連携していく」ことである。ポイントは2つある。1つ目は「社会的課題に着目し、社会的ニーズを取り込む」こと。2つ目は、「業界の枠組みを超えた構想を描き実現すること」である。数千億円規模のビジネスを創造しようとするならば、それに相当する社会的ニーズがあることが前提となる。人々が感じつつも普段の生活では何気なく放置している疑問、居酒屋談議で多数のサラリーマンに語られている社会への不安、新聞において面白おかしく書かれている法制度の矛盾など、身近なものの背景に、社会的課題がある。


数千億円のビジネスを創造するために社会的課題に着目するとなれば、既存の業界の枠組みは超えざるを得なくなるということでもあると三宅・島崎はいう。社会的課題は、その大きさが大きいほど、その裏に存在する潜在的な事業規模も大きい。一方で、課題が大きいほど、顕在化させるのも難しい。しかし、そこには間違いなく事業創造ポテンシャルがあるという。そして、大きな事業創造は1人や1社では実現できない。よって、いろんなプレイヤーと役割分担しながら事業を紡いでいく必要がある。その場合に、複数のプレイヤー同士が根本的なところで共感していることが必要条件になってくる。社会的課題に着目することはそのような理解や共感を得やすいのである。繰り返せば、大きくなる事業の種は業界をまたぐところにあり、単独でなく他のプレイヤーとつなげることで新たな市場が生まれる。業界をまたいだ大きな絵を描いて、他のプレイヤーとつながりながら行う事業創造こそがビジネスプロデュースなのだと三宅・島崎はいう。


では、ビジネスプロデュースはどのように進めていけばよいのだろうか。三宅・島崎は、「構想する」「戦略を立てる」「連携する」「ルールをつくる」「実行する」の5つのステップについて解説している。まず、社会的課題に着目しつつ比較的自由にイメージを膨らませる「妄想」から入り、それをより具体的な「構想」に発展させる。その際には、高い視座に立って、いくつかの業界を俯瞰することが求められる。そして、妄想を起点に構想を大きく描くためには、かなり深いところまでリサーチして分析し、知識を得る必要があると三宅・島崎はいう。つまり、高い視座と深い分析が必要である。なお、構想の際に必ず考えておかなければならないのが「フック」と「回収エンジン」である。フックはそのビジネスの「撒き餌」で、回収エンジンは「お金を得る仕組み」である。ちなみに、フックと回収エンジンが離れているほど事業規模は大きくなる傾向があると三宅・島崎はいう。フックと回収エンジンは自社のもののみを考えるのではなく、連携して行う企業の回収エンジンも同時に設計する必要がある。


構想することと戦略を立てることは一連の動きであるので区別は難しいが、構想は全体の関係性を明確に描くことで、戦略は個別の関係を明確にして実行できるレベルにまで落とし込むことである。つまり、ビジネス全体の仕組み、ビジネスの生態系(エコシステム)をつくるのが「構想する」ことで、それを実行できるよう具体化して優先順位を決めていくのが「戦略を立てる」ことである。重要な数値やタイムスケジュールについては、KPIとして設定しておく。次のステップの「連携する」については、ビジネスプロデュースで求められるのは横の関係―対等の関係だと三宅・島崎はいう。ルールづくりについては、連携する企業間でのルールづくりと法律や条例、業界の商慣習などのルールを変更したり新たにつくることである。連携前であればできないことをできるようにする、新しいビジネスを可能にするためのルールを作るなど、既存のルールを超えてビジネスを構想することは、社会的課題を解決するために必要であることが多いと三宅・島崎はいう。


実行するにあたっては、事業創造のオペレーションは、通常のオペレーションとはまったく違うということを肝に銘じる必要があると三宅・島崎はいう。事業創造においては、想像しなかった事態が次々と発生し、戦略を大幅に変更することを余儀なくされたり、構想を見直す必要すら出てくる可能性がある。したがって、実行する人間が、そのもととなる戦略や構想を修正し、しかもより良い形に進化させていかなければ事業創造の取り組みはあっという間に頓挫するというのである。となると、実行主体はビジネスプロデューサー本人であることが最も望ましい。ビジネスプロデューサーは、実行にあたってはKPIの達成を死守し、論より証拠で動かない人や組織を動かしていくことが必要だというのである。