デザイン思考の要諦

佐宗(2015)は、デザイナーから学ぶ創造力すなわち知的生産術として「デザイン思考」を紹介している。デザイン思考の前提には、デザイン(構想)、エンジニアリング(実現)、ビジネス(商売)の3つの要素が協働することでイノベーションを生み出すことができるというポイントである。ここでいうデザイン(構想)とは「人間にとって望ましい姿を構想する」ことであり、エンジニアリング(実現)は「再現性をもって実現することを可能にする」ことであり、ビジネス(商売)は「社会にとって影響力を広げていく商売の仕組みをつくる」ことである。


とりわけ、佐宗が影響を受けたのが、ダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト」であり、そこには「機能だけでなくデザイン」「議論よりは物語」「個別よりも全体の調和」「論理ではなく共感」「まじめだけでなく遊び心」「モノよりも意義」といった、右脳型の6つの感性が提唱されているという。佐宗は、以下に示すような、デザイン思考のヒントとなる「デザイナーの常識」を紹介している。


まず、デザイナーの志向として、「リサーチはインスピレーションの沸くビジュアルを探す」「思考はアナロジーを使ってジャンプさせる」「プレゼンは、印象的なストーリーで共感を得る」「サマリーは1枚の絵で表現する」というものがある。次に、デザイナーが行っているデザイン思考のプロセスとしては、「作りながら考える」「形にして議論する」「プロセスは緩く設定し、柔軟に変える」「良い点を見つけて強める」というものがある。


また、デザイナーの性格や行動特性としては、「まだ世の中に存在しないものを考えるのが好き」「一度作ってみてそれをどんどん改変していく」「あらゆるものごとから刺激を得て、発想する」「発想にもユーザーを巻き込んでいく」「話を聞いた人数にはこだわらない」というものがある。そして、デザイナーにとって、創造モードを高める環境としては、「学びやアイデア見える化できる環境」「ホワイトボードなどの書き込みが自由にできる環境」「体を動かしやすい環境」「刺激物をたくさん置く環境」「ラフなアイデアやプロトタイプを気軽に見せ合う」「メモは手書きでポスト・イットやノートに図で」というものがある。


最後に、デザイナーのキャリア観、働き方については、「自分らしいキャリア=個性を自分で作る」「プロセスはラフに決めつつも、アウトプットに合わせて柔軟に組み替える」「一見役に立たなそうなことも勉強してみる」「時には全然違う分野の人と協業してみる」というものがあることを、佐宗は紹介している。