伊賀(2012)は、マッキンゼー社での12年に及ぶ採用マネジャー経験から、地頭よりも、論理的思考力よりも大切なものであり、マッキンゼーの採用基準としても重視しているものとして、「将来、グローバルリーダーとして活躍できる資質」を挙げている。とりわけ、伊賀が協調するのが「問題解決リーダーシップ」である。これは、マッキンゼーでも業務の中核を占める「問題解決」にあたって、実際に問題を解決するのは、問題解決スキルではなくリーダーシップなのだという信念に基づいている。問題を解決するためには、何らかの形で解決策が言語化されるならば、そのステップをひとつずつ実行に移していく必要がある。「どうすればよいか皆わかっているが、誰も何もやろうとしないために放置されている問題」もある。そういったときに他者を巻き込んで現状を変えていこうとすれば、必ずリーダーシップが必要となるのである。
具体的に「問題解決リーダーシップ」とは何か。伊賀によれば、問題解決スキルとは「MECEやロジカルシンキング、仮説思考、フレームワークなどの思考テクニックを使って、問題を整理・分析し、解を見つけるための技術」である。それに対して、問題解決リーダーシップとは「解くべき課題(イシュー)の定義から、分析の設計、関連する組織や人とのコミュニケーションを含む一連の問題解決プロセスにおいて、リーダーシップを発揮すること」である。
その1つの構成要素として「構築型の能力」がある。伊賀によれば、「構築型の能力」とは「独自性があり、実現したときのインパクトが極めて大きな仮説を立てる能力」であり、「ゼロから、新しい提案の全体像を描く構想力、設計力」である。仮説構築力や構想力は、「掘り下げる」のではなく「組み上げる」という方向の統合型・設計型能力である。これは、「今は存在しない世界」をゼロからイメージして組み上げて思考が求められるものであり、バラバラに散らばった部品や材料を見ながら「これらを使って、何か価値のあるものをつくれないだろうか」と考える力を要する。つまり、問題の指摘や問題が起こるメカニズムの現状把握に加え、「あるべき姿の提示」や「新しい仕組みの設計」を行う能力が問題解決型リーダーシップに求められているということである。
また、問題解決リーダーがなすべき具体的なタスクとしては、「目標を掲げる」「先頭を走る」「決める」「伝える」の4つに収束すると伊賀はいう。目標を掲げ、先頭に立って進み、行く道の要所要所で決断を下し、常にメンバーに語り続けることがリーダーに求められている4つのタスクだというのである。
リーダーシップ・ポテンシャルの高い人というのは「変化を起こす力のある人」である。社会なり、組織なりを自ら変えられる人である。リーダーにとって変化は自分が起こすものであって、目標は与えられものでなく、自分で掲げるものである。周りに、向かうべき高いゴールを明確に示し、メンバーが「つらくても頑張ろう」と思えるに足る魅力的な目標を掲げることが重要である。「そこに到達することで、自分は大きな高揚感が得られる。多大な苦労は伴うが、ぜひ、到達してみたい」と感じさせる目標である。また、リーダーは「最初の1人になる」「先頭に立つ」ことを厭わない。公衆の前に自分をさらし、結果がうまくいかない場合も含めてそのリスクや責任を引き受ける覚悟があり、結果として恥をかいたり損をする可能背も受け入れる受容度の高さも求められる。そして、たとえ十分な情報がそろっていなくても、十分な検討を行う時間が足りなくても、決めるべき時に決めることができるのがリーダーである。そして、リーダーとしてのポジションにある人は、何度も繰り返して粘り強く同じことを語り続ける必要がある。悪意をもった言説と組織内の不協和音を取り除き、人心をひとつにして前に進めるために、リーダーの言葉以上に強力な武器はないというのである。