時代を切り拓く一身独立のリーダーシップを身につけるには

冨山(2010)は、自身が元・産業再生機構のCOOでありながら「日本国自身が、今度は史上最大の再生案件になりつつある」と憂いている。その中で新しい時代を切り開いていくために期待されているのが「真のリーダー」の登場であるという。さらにいえば、パラダイムが大きく変化していく時代にもっとも確実な生き方は、自分自身が自分自身のリーダー、主人(あるじ)になる生き方なのだと説く。


冨山は、戦後の日本を支えてきたのは、中央官庁とそれを整然と取り囲む大企業を中心とした「カイシャ幕藩体制」であったという。つまり、中央官庁という「幕府」と、大企業という「藩」、そしてその社員から構成される「武士階級」によって、この国は動かされ、機能してきたのだという。地方も、同じような役所と地方名門企業群によるミニ幕藩体制であった。奇しくも、江戸時代の武士階級の人口比と、上場企業の社員の全労働者に占める比率がほぼ同じだと指摘している。


しかしこのカイシャ幕藩体制はすでに綻び、カイシャ維新が始まろうとしていう今、どうすれば一身独立のリーダーシップを発揮して維新後の時代を生き残ることができるのか。その鍵を握るものの1つが、ストレス耐性だと冨山はいう。温室育ちのエリートのようにストレス耐性がなければビジネスの修羅場では役に立たない。修羅場の高ストレス状態で集中力、執念を絶やすことなく、毅然とした意思決定ができる能力が求められるという。では、どうすればそれらが身につくのか。


そのために冨山は、意識して「グレル」ことを奨励する。安全なエリートコースなど歩まず、あえて外れる。そうすれば否が応でも風当たりが強くなって、ストレスがかかるのだという。そんな状況のもと、課題を1つひとつ解決していく中で、実力もつくし、人間も鍛えられるのだという。また、若さゆえにとれるリスクに身をゆだねることも大切だという。競争から逃げず、どうせ選ぶのならより難しい場所を選ぶ。負け戦を体験するなら若いうちだというのである。そういう場所で苦労して、いろいろなことを学べるのである。失敗がないのは、勝負していないことの証なのである。


また、無能な上司に出会うことこそチャンスだという。自分の身の不幸を嘆くのは論外であり、成果もでず、負け戦になってしまうような上司のもとで、どういうふうに自分が苦闘するかが大事なのだという。有能な上司に恵まれたなら、そこからうまくやるコツをパクる。無能な上司だったら反面教師として学び、ついでに仕事そのものをパクってしまう。スポンジみたいに誰からもパクり、誰からも学べばよいのだと冨山はいうのである。いっときの不運や不遇ではなく、その巡り合わせをどう自分の血と肉としていくかなのである。