マッキンゼー流仕事術

石井(2013)は、世界的なコンサルティング会社であるマッキンゼー社を辞めてお笑い芸人への道へと進んだが、マッキンゼー社在籍時代を振り返りつつ、そこで行われている仕事ぶりについて述べている。


石井は、マッキンゼー社を「100メートル走のスピードでフルマラソンを走るような会社」だと評する。クライアントは大企業ばかりで、その大企業が抱える問題を多額のフィーをもらって解決するため、必然的に仕事量は多くなり、ものすごい質とスピードを要求されるのだという。しかし、会ったこともないような優秀な人が多いのは事実だが、会社の中で特別なことが行われているわけではなく、仕事内容の吸収も速ければ成果を出すのも速いような人たちがひたすらマジメに全力疾走している集団なのだという。


マッキンゼー社では、新人社員であろうと「バリュー(価値)」を提供することを要求される。効率的に猛スピードで仕事を進める「密度」と、入社直後から長めの「労働時間」を掛け合わせることから「マッキンゼーでは一般的な会社の3倍のスピードで成長する」と言われるのだと石井は言う。クライアントへの価値提供、インパクトが最優先事項であるため、新人社員のみならず、マネジャーやパートナーでも誰でもそれぞれのポジションでストレッチ(背伸び)して走り続ける。つまり、クライアントへの価値を最大化するために寝食を惜しんで死に物狂いで働く会社なのだという。


そして「即断、即決、即行動」のマインドセットマッキンゼー社の特徴でもあると石井は指摘する。「思い立ったら即行動」する文化であり、とにかく何でも取りかかるのが早い。すべてのアクションが猛烈に「早い」し「速い」。石井も、エクセルで計算していたときに「普通の人のスピードになってる」と指摘されたそうである。限られた時間内でより精度のよい解に近づかなければならないため、すべての行動がスピーディにならざるを得ず、躊躇する瞬間がない。また、スピードを出すために他人の力を最大限レバレッジすることも求められる。コンサルタント自身は問題解決に集中し、そのために誰に何を依頼するかを判断して他人の力を最大限に用いるといった仕事の段取りである。そうすることにより、クライアントに対して「刺さる」「バリューを出す」ことができる人が勝つ世界なのだという。


また、マッキンゼー社では「カンファタブル・ゾーン(居心地のよい状態)にいてはいけない」と言われているそうである。一見、できそうにないと思うことでも、必死に背伸びをして常にチャレンジし続けていなければならない。ストレッチすれば当然ストレスもかかるし、できないのが当たり前だが、背伸びをしていてもゴールが遠ざかっていく会社なので、表では涼しい顔をしていても水面下では誰もが全力で浮上しようともがいているという。そのためにメンタルの強さも大切で、「PMA(ポジティブ・メンタル・アチチュード)」や「自信をもってスタンスを取る(主張を強くはっきりさせる」ことが重要なのだと石井は言う。仕事上、きついことをストレートに言われることがちょっちゅうであり、プレッシャーにいちいち反応していたらきりがない。できる人は「打たれ強さ」が違うのである。


石井によれば、マッキンゼー社では基本的に「アップ・オア・アウト」なので、それぞれのポジションごとに3〜4年の期限内に昇進が求められ、それが達成されなければ出て行かざるをえない。つまり、「成長を続けて昇進できなければこれ以上自分はここに居られない」ということである。その場合の人事評価は「絶対評価」であり、ポジション争いの概念がないので、同期はライバルではなく、仲間になる。だが結局、大半が3年前後でやめていくため、終身雇用の会社ではないということである。そして、マッキンゼー社は、社員でいる間は徹底的に厳しいプロフェッショナリズムを求めるが、卒業していく人には優しい会社で、たくさんの先輩や同僚に応援してもらえると石井は言う。