ストーリー型の文章を書くためのコツ

吉岡(2013)は、世の中の文章は大きく主張型・ストーリー型・直観型に分かれるという。そのうち「ストーリー型」の文章は、ある具体的な場に含まれる要素が、時間とともにどう変化していくかを表現する文章で、歴史や物語の類である。例えば、「いつ/どこで/だれが(何が)/何をして/どうなったか」というようなスタイルで物事を述べていくという特徴を持っている。素材が現実に起こったことならばルポや歴史の類になるし、非現実的なものであれば物語とみなされる。そして、どんな長いものでも、ストーリー型の文章であれば、「いつ/どこで/だれが(何が)/何をして/どうなった」というスタイルで整理できるのだと吉岡はいう。


ストーリー型文章は、場面に分けることができる。場面とは、「いつ/どこで/だれが(何が)/何をして」が「どうなった」の変化にたどりつくまでの連続したつながりであり、1つの「いつ/どこで/だれが(何が)/何をして」が別の「いつ/どこで/だれが(何が)/何をして」に変わるところが場面の切れ目になる。1つの場面の区切り方として応用範囲が広いのは、登場人物の出入りによって区切ることであると吉岡はいう。


吉岡は、物語の形態などある程度普遍的であり、時代・状況を問わず共通する原型で分析できるという。つまり、物語はパターンの使い回しだというのである。つまり、時代・場所が違っても、その中で展開する物語はみな似ているし、大同小異になるという。例えば「スターウォーズ」にせよ、「平家物語」や「羅生門」にせよ、その中で描かれる人間とその行為には大した違いがない。そもそも人間の一生なんて似たようなもので、生まれて育って仕事をして誰かと出会って闘ったり子供を作ったりしてやがて老いて死んでいく。結局はそういう枠組みを逃れられないのだと吉岡はいう。


さらに言うならば、ストーリー型文章は、「いつ/どこで/だれが(何が)/何をして/どうなった」という客観的条件に、心情・キャラクターが推進力を与え、できる限りそれを具体的に細かく、ときには言葉の標準的使用からはずれても実現していくタイプの文章なのだど吉岡はいう。特定のキャラクターをもった主人公などの登場人物が、何か/誰か(対象)に働きかけ、何らかの変化を引き起こす。それがまた主体ないし他の対象に跳ね返って反作用し「場」のあり方を変え、最初の関係も変えてしまう。その結果として特有の心情を生み出す。そこには、行動描写、心情描写、情景描写が絡んでくるが、物語に一番特徴的なのは情景描写だろうという。


魅力的なキャラクターはだいたい一面的(フラット)ではなく、「親切でありながら時には残酷」というように複雑(ラウンド)だという。そもそも現実の人間は矛盾する性格を持っており、人間のキャラクターは一貫しているようで多面性を持っているのである。だから物語の主人公はラウンドキャラクターになっており、状況によって行動を使い分けて全体に反映させるのだと吉岡は解説する。そして、物語である事件や現象が起こるのは、それを成り立たせるキャラクターが存在するからである。また、キャラクターには個人的性格のみならず、社会的地位・階級などの社会的意味も含まれるという。


ちなみに「直観型文章」の型は「体験・感想・思考」の3点セットだと吉岡はいう。自分の身に起こったこと(個人的な体験)からそのことに対する考え方(感想への共感を誘う)を述べ、そこから考えた内容(普遍的思考)へと進む。つまり、体験に即した感想を一般化させるという構造である。随筆・エッセイの類の面白さは「思考」にあるとは簡単に言えず、体験にひきつけられるとか、感想が魅力的であるという場合もあるし、独特の文体や語り口が面白いという場合もある。要するに、このジャンルは書くにも読むにもかなり熟練や技術が必要な分野だと吉岡は指摘する。