映像的な文章を味読する方法

石黒(2010)は、視覚に訴える優れた文章を楽しみながら読むための「視覚化ストラテジー」を紹介している。視覚化できる文章は映像的な文章で、見ている人の目が感じられるという。この、映像的な文章をどこまで視覚化できるかは、読み手の裁量しだいだとも言う。つまり、映像的な表現を手がかりに、読み手が視覚化イメージを積極的に活用してその映像を再現すれば、臨場感豊かな場面を楽しむことができるのだという。


文章の視覚化を考える場合、まず視点のメカニズムを考えるのが有効である。視点における主体を「視座」、対象を「注視点」という。視座と視点のあいだには「視野」と「視線」が存在する。優れた映像的文章は、「視座」「注視点」「視野」「視線」のカメラワークが巧みであるので、これら4つの組み合わせを意識して文章を読むだけで、文章から得られる視覚イメージが豊かになってくる。


主人公が「私」のような一人称の場合、1人の登場人物の内側から物語世界を眺めることになるし、主人公が「次郎」のように三人称の場合、主人公も含め、登場人物を外側から描くことになる。これだけでも、内側から見た視点、外側から見た視点というように、視覚イメージがかなり異なる。優れた文学作品は、1つ1つの表現が視点というものを形作り、読み手が一貫性を持って物語の場面をたどれるようなしかけになっていると石黒はいう。


このような視点のメカニズムをよく理解し、それを意識しながら映像的文章を読むことによって、作品世界の魅力がよりビビッドに浮かびあがってくるであろう。