デザインはビジネスにとって必要不可欠な要素である。奥山(2019)によれば、デザインとは、「モノ」自体のコンセプトを立案し、開発からマーケティングまで、全体の枠づくりを目指す仕事である。別の言い方をすれば、デザインとは、人間が自分たちの生活を良くしたいと思って行う創意工夫であり、そこに「モノ」や「サービス」が生み出されるのだという。であるから、「デザイン思考」の根底にあるのは、構想する力、構想したものを実現する力、それをビジネスとして成り立たせる力を通して、これまでの延長線上にない新しいビジネスや市場を開拓したり、行き詰った業務や問題を抱えた社会を変革したりするための非連続なイノベーション・ツールとしてデザインを捉えることなのだと奥山はいうのである。
奥山は、デザインは、具体的な問題や課題を解決するために、思考や概念の組み立てを行い、それを様々な形で表現することだという。そして、デザインの本質は、言葉を通してコンセプトを選び出すことだと説明する。つまり、「言葉のデザイン」が肝要だということである。まず最初に言葉によるコンセプトがあり、次にそれを具現化する絵や模型などの視覚的なものがあるべきなのだというわけである。さらに奥山は、デザインは直感やインスピレーションだけの産物ではなく、優れたプロセスの産物なのだという。つまり、デザインは、ただの偶然に頼る産物などではなく、優れたプロセスによってロジカルに偶然を呼び起こす、必然の積み重ねの結果生まれるものなのだというのである。では実際のデザインでは、どのような点に注意すべきなのだろうか。
まず、モノもサービスも飽和したビジネス環境の中で新たな需要を生み出すためには、ウォンツを見つけ、ウォンツをもとにした「顧客と市場の創出」が欠かせないと奥山はいう。ニーズが顕在化した需要(必要)なのに対し、ウォンツは潜在的な需要(欲求)を指す。本物のデザインには、ウォンツを刺激したり、喚起したりする力があるというのである。次に、コモディティ(普及することで機能や品質の差別化が困難となってしまったモノやサービス)にならないものをつくることである。そうなると、ウォンツに基づいたモノづくりとは、プレミアムやラグジュアリーを意識したものでなくてはならないという。例えば、コモディティとプレミアムの中間にあるプレミアム・コモディティを作ることを奥山は提案する。
プレミアムやラグジュアリーを作っていくうえで意識せざるを得ないのが、ブランディングである。奥山の説によれば、ブランドとは、顧客の期待を満足させるものを提供するという、顧客に対する「約束」によって成り立っている。そして、ブランドは単品では成り立たない。プレミアム・コモディティを土台とし、上に行くにつれて中間層となる商品があり、さらに頂点となる商品がある。つまり、ブランドはピラミッドと同様の形をしていると奥山はいう。そういったブランドを象徴する商材としてフラッグシップ(旗艦)というものがある。フラッグシップは、ブランドの象徴としてのイメージ戦略を担い、人々のウォンツを刺激し続けるものであるから、フラッグシップの価値を高めることがブランドにとって重要である。そして、フラッグシップはブランドのアイデンティティやモノづくりの思想を表現するものであるから、ブランドストーリーの核として、創業者の想いとか、ヘリテージ(遺産)などを活用することが重要であると奥山はいう。
さらに奥山は、「ビジネスデザイン」のためにはまず「収益を生み出すモデル」への視点が必要だと論じる。利益率と収益源のデザインを行い、収益モデルから逆算してデザインを行っていくわけである。そのためには、社会を取り巻く環境を見つめ、今の世の中にはどんな問題があるのか、そして自分ならどう解決するのか、というシミュレーションやパターンを想定し、頭の中の引き出しに集めておく。そして、誰が本当の顧客なのかを明確にし、本当の顧客にとってのブランド価値を高めていくことが重要なのだと奥山はいう。