デザイン思考の方法論

紺野(2010)は、デザイン経営の知的方法論として、「コンセプト・デザイン」「関係性デザイン」「シナリオ・デザイン」3つのデザインを紹介している。


コンセプト・デザインとは、「コンセプト化(概念化)」の方法である。社会や経済、顧客現場の観察データからいきいきとした新たな意味(コンセプト)を発券し、製品・サービスなどのイノベーションのデザインをすすめるためのものである。コンセプト・デザインに有効なのは、エスノブラフィー、グラウンデッド・セオリー・アプローチ、ナラティブベース・メディシンといった人間の生の現実を調査・研究するための質的研究方法論である。これらの方法論の特徴は、(1)現場観察や顧客のフィールドが基点となる、(2)現場から経験データを獲得し、変数を抽出する、(3)コンセプト、理論やモデルを発見、構築する、(4)対話と実践を重視する、ことである。


関係性デザインとは、自社の活動を顧客価値に結びつける、多様な要素の関係性をデザインすることによって、ビジネスモデルをデザインすることである。ビジネスモデルを顧客サイドの視点に立ち、現場において顧客がいかなる経験をするのかの「経験デザイン」を通じて、それがどのように提供されるかをパッケージングすることでもある。そのためにさまざまな資源、コト、モノの関係性をデザインするわけである。


シナリオ・デザインとは、時間・空間をデザインする方法である。時間軸に沿って場面(空間)が展開する、筋書き(プロット)のデザインである。単なる物語りではなく、常識を打破するような「世界の構想力/制作力」が必要なのだと紺野は説く。とりわけ、「変極点」でのデザインが重要である。なぜなら、質的変化が起きたときに、それを乗り越え、知識創造や自己革新(メンタルモデルやマインドセットの革新)ができることが、持続性の条件だと考えられるからである。そのための方法論に、シナリオ・プランニングなどに基づくシナリオ・ベースド・デザインがある。シナリオ・プランニングは、不確実な変化を生み出す「深層要因」を洞察し、ありうる未来への展開について複数の仮説(世界)を立て、それらに基づいて意思決定や判断を行う方法である。


紺野によれば、これら3つの方法論は相互に関連している。シナリオ・デザインは、どういったパースペクティブを持って戦略を考えるか、もしくはイノベーションを志向するかの指針を与える。コンセプト・デザインは、顧客や社会の現場から知を獲得するデザイン思考の基点となる。そして関係性デザインは、コンセプトを顧客価値や市場のエコシステムとの関連性で総合していく役割を担うのである。