デザイン思考のメカニズム

ブラウン(2010)は、イノベーションに対する新しいアプローチとして「デザイン思考」を提唱する。デザイン思考は、誰もが持ってはいるものの、従来の問題解決手法では軽視されてきた能力を利用するという。それは、直感で判断する能力、パターンを見分ける能力、機能性だけでなく感情的な価値をもつアイデアを生み出す能力、単語や記号以外の媒体で自分自身を発信する能力などである。


デザイン思考を理解するにあたって重要なのは、イノベーションは連続体であり、整然と順序付けられた手順というよりも、重なり合う空間全体からなるシステムと考えることであるとブラウンはいう。それら3つの空間とは「着想(インスピレーション)」「発案(アイディエーション)」「実現(インプレメンテーション)」である。デザイン思考のプロジェクトはこの3つの空間を何度も行き来することもある。このようにプロセスが反復的で非直線的なのは、デザイン思考は探求のプロセスであり、途中で必ず予期せぬ発見があるはずだからである。それが時には根本的な前提を見直すきっかけにつながり、プロセスを行き来することにもつながる。


また、制約がなければデザインは生まれない。むしろ相反する制約を喜んで(時に熱烈に)受け入れることこそ、デザイン思考の基本だという。重要な制約を見分ける枠組みが、「技術的実現性(フィーザビリティ)」(現在もしくは近い将来に技術的に実現できるか)「経済的実現性(ヴァイアビリティ)」(持続可能なビジネスも出るの一部になるか)「有用性’(デザイアラビリティ)」(人々にとって合理的で役立つかどうか)である。デザイン思考家は「クリエイティブな方法」でこの3つのバランスをとろうとする。そのための思考の対象が「プロジェクト」である。プロジェクトの開始点は「概要書(ブリーフ)」で、よい概要書は、思わぬ発見、予測不能性、運命の気まぐれの余地を残した形で、高い目標を掲げ、イノベーションを成長の原動力としようとする。そして、プロジェクトを担うのは異分野連携のチームである。


さらに、漸進的で平凡な変化でなく、地図を塗り替える飛躍的な発想を生み出すには、互いに相乗効果を持つ「洞察(インサイト)」「観察(オブザベーション)」「共感(エンパシー)」の要素に注目するのがよいとブラウンはいう。現場に赴き、観察を重ねることで、満たされていないさまざまなニーズなどの洞察を得ることができる。そして観察対象の人々と根本的につながり合うこと「共感」を通じて他者の身になって考えてみることで、機能的、認知的、感情的な理解と洞察を得る。そして、収束的思考、発散的思考を繰り返し、分析と綜合するとうプロセスを用いるのである。