ジャガード・イノベーション、フルーガル・イノベーション

イノベーションの新たな思想として注目を浴びているのが、ラジュ, プラブ, アフージャ (2013)らによって提唱されている「ジャガード・イノベーション」あるいは「フルーガル・イノベーション」である。日本語らしく言えば「倹約志向型イノベーション」である。リバース・イノベーションとも関連しており、主に起業家精神が旺盛な新興国で発生するイノベーションからヒントを得た思想である。ラジュらによれば、ジュガード・イノベーションの基本原則は以下の6つである。

  • 逆境を利用する
  • 少ないものでより多くを実現する
  • 柔軟に考え、迅速に行動する
  • シンプルにする
  • 末端層を取り込む
  • 自分の直観に従う


この6つの原則が、ジュガードの粘り強さ、倹約、適応、シンプル、末端層の取り込み、共感、情熱につながるとラジュらはいう。まず、逆境をイノベーションと成長の源にする能力である。「逆境」すなわち厳しい制約は、イノベーションのきっかけになる。この思想により、逆境をチャンスに変え、自身と周囲に価値をもたらすわけである。次に、より少ないものからより多く、すなわち最小限の努力や資源で最大限の効果をあげる。あり合わせのものでなんとかする(エフェクチュエーション)。この思想が、限られた財源と天然資源の使用を最適化し、より多くの顧客に高い価値をもたらすことにつながるのである。


柔軟に考えることは、すなわち既成概念の枠組みにとらわれないだけでなく、概念そのものを一新することにつながる。その思想が画期的な着想につながり、社会通念をひっくり返してまったく新しい市場や産業の創出を促す。行動の柔軟性も重要と迅速さも重要である。さらに、倹約志向イノベーションは、過剰な性能を持たせることで製品に洗練や完璧を求めることをせず、目的を果たすために十分な優れた解決法を考え出す。シンプルなままにしておくということである。


顧客については、主流の人々よりもあえてサービスが行き届かない末端層の人々を狙う。低所得者を受け身の消費者ではなく、価値を共創する相手としてとらえるわけである。さらに、情報や調査に頼らず、自分の心を信じ、それに従う。大切にするのは、直観、共感、情熱である。スティーブ・ジョブズがその典型で、分析には頼らず、つねに直観を大事にし、イノベーションを起こし、事業を成長させたわけである。