「シンプル思考」による人生論

森川(2015)は、シンプルに「何が本質か」を考え尽くすことの重要性を主張する。その結果として、もっとも大切なものを探り当てて、それにすべての力を集中する。それ以外のものは捨て去る。自分なりにシンプルな答えを出して、とにかく全力でやってみるというわけである。森川自身は「やりたいことをやって生きていこう」と決心したと過去を振り返る。


ただし、逆説的ではあるが、「やりたいことをやる」といっても、ビジネスにかかわらず、生きていくうえで一番大切なのが「人々を幸せにすること」だと森川はいう。なぜならば、この世界は、求める者と与える者のエコシステムだからである。であるから、人々を幸せにすることこそが、自分が幸せになる唯一の方法なのだというわけである。そもそも、人はだれでも「存在価値」を認められたいと思っている。仕事を通じて世の中の人に喜んでもらったときに、自分の存在価値を認められたと感じる。それが「幸せ」なのだと森川は説く。


であるから、やりたいことをやって、自分らしく生きていくためには、常に「人々は何を求めているのだろう」「人々は何に困っているのだろう」と考えることが大切である。試行錯誤を繰り返しながら、人の気持ちがわかる人間になる。そのために、自分の感性で生きることが重要である。例えば、仕事ではユーザーの気持ちがわかることが重要で、ゲームであれば、ユーザーが面白いと思うことが大切なわけだが、自分の感性を大切にし、自分の中の「面白い」という感性を追求すれば、自然とユーザーに喜ばれるものに近づいていくということである。


このようにして、どんなことであっても、人々が求めているものを与えることができるようになれば、どんな時代になっても生きていくことができると森川はいう。つまり、大切なのは、人々が本当に求めているものを感じ取る能力と、それを具体的なカタチにする技術を磨き続けることなのである。そして、人々が求めているものが変化したときには、それをいち早く察知して新しいものを差し出す。そこにひたすら集中するわけである。


また、新しい価値を提供しつづける、すなわち攻めていくためには、覚悟をもって過去の成功を捨てることが大切だと森川はいう。なぜならば「守ると攻められない」からである。強い意志をもって「古いもの」を捨てる。成功を捨て続けることが成長につながるのである。たとえ厳しくても、常に新しい価値を生み出すことに挑戦し続けたほうがよい。心が折れそうになってもあきらめずに努力を重ねる。そもそも、仕事はしんどくて当たり前なのである。そのしんどさを引き受けて、淡々と日々の仕事に向き合う。その苦しい過程を経て、結果が出たときの「幸せ」の感覚を体感しているのが、本物のプロフェッショナルなのだと森川はいう。