小さなスティーブ・ジョブズを目指せ

林野(2012)は、これからは結果を出した人だけが評価される真剣勝負の世界となり、そこで重要になってくるのが「BQ=ビジネス感度」であるという。BQ=IQ(知性)+EQ(理性・人間性)+SQ(感性)であり、とりわけ林野が重視しているのはSQ(感性)だという。いま社会が求められるのは、性能が優れたものや便利なものではなく、感性に訴えかけてくるものだからである。未来を予測することは困難であり、変化を察知し、対応することである。どんな変化にも予兆はあり、変化が顕在化する前に予兆をとらえられる感性が大切だというわけである。つまり、変化をいち早く察知し、時代を先取りするために必要なのがSQである。


BQの高い人は感性が豊かで、従来の枠組みを飛び越えて自由に物事をとらえることができるという。では、どのようにBQ,とりわけSQを磨けばよいのだろうか。林野は、仕事と遊びには共通点が多く、仕事で必要なBQの大部分は遊びの中で磨くことができると指摘する。例えば、勝負事のようにリスクのある遊びを忌避するのではなく積極的に楽しみ、経験を積み重ねていくと、運やツキの流れをつかめるようになるという。つまり、リスクのある環境に身を置いてこそ、BQを高めることができるという。また、異質な経験を積み重ねることも大切だと説く。積極的に外に出て、人と関わり、異質な経験を積むことが大切である。さらに、感性の肥やしになるのは、教養、あるいは雑学に分類される知識だという。感性を磨くのに必要なのは、むしろ仕事から遠いところにある経験や知識だというのである。幅広い経験と知識を増やすエンジンとなるのが「好奇心」である。


あたりまえを積み重ねることも重要だと林野は指摘する。人間性は感性磨きと同じように一朝一夕に効果が出るものでない。おそろしく地味だけど、人として大切なことをひたすら積み重ねていくことしか、人間性を高める術はないと心得るべきだという。できるだけ生活を簡素化して、ゆったりとしたテンポで暮らすこと、つらい出来事に直面したら、それを真正面から受け止めることなども、心を上手にコントロールし、ネガティブな感情に流されないようにするためには重要だという。


SQが高いと思われるリーダーが、スティーブ・ジョブズだと林野はいう。今の時代に必要なのは、スティーブ・ジョブズのように自分の感性を信じて突き進むリーダーだと指摘する。ただし、スティーブ・ジョブズの起こしたイノベーションは、各現場にいる小さなスティーブ・ジョブズたちによって支えられていたともいう。したがって、私たちが目指すのは、ジョブズの代わりを務めることではなく、一人ひとりが自分の現場で「小さなスティーブ・ジョブズ」になることなのだというのである。とくに、リーダーに求められる2つのソウゾウ力(想像力、創造力)の重要性を林野は強調する。まず、変化の激しい時代において、未来をイマジネーションする力はリーダーには欠かせない。想像と創造は、現場でも必須である。そもそも想像は外れることが多い。時代の先端にいる人とは、未来を的確に予想できる賢人ではなく、波の先端に乗って自分の想像を柔軟に修正していける人だという。想像するときは、どうせ後から修正するのだというつもりで、思い切って大胆な仮説を立てることを林野は奨励する。