破壊的イノベーションの起こし方

玉田(2015)は、破壊的イノベーションおよびイノベーションのジレンマのメカニズムや事例を解説するとともに、どのようにすればイノベーションを起こしていくことが可能かについての解説を行っている。玉田によれば、イノベーションに対するアプローチは、大きく分けて3つある。1つ目は、これまでに既存の商品やサービスを何も使っていない「無消費者」を対象に、これまでになかった簡便な製品やサービスを提供する「新市場型破壊」である。2つ目は、既存製品の性能が多くの顧客にとって行き過ぎてしまっている「過剰満足」状態の顧客に対して低価格で性能もそれほど高くないものを提供する「ローエンド型破壊」、3つ目が、顧客が製品やサービスを受けた時に感じる「メンタルモデル」を変化させることで、これまでよりも高性能・高品質な製品を開発し提供する「持続的イノベーション」である。


玉田によれば、そもそも、破壊的イノベーションとは、「既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手がよく、安上がりな製品やサービス」である。これを踏まえると、第一のアプローチである、新市場型破壊では、これまでに何もつかっていない「無消費」の顧客をターゲットとするわけだが、この「無消費者」がなぜ既存の製品やサービスを消費していないのかを理解するのがポイントである。例えば、ニーズがあっても、コストや利便性を考えると、利用ができていないということが考えられる。したがって、「既存の主要顧客には魅力的ではない」が、無消費者にとっては「シンプルで使い勝手がよく、安上がり」なものを開発し、投入するということになる。


第2のアプローチである「ローエンド型破壊」についても、機能や性能、サービスが過剰になっているような既存市場において、主要顧客には魅力的ではなくても、特定の顧客からみると、「機能はこれで十分満足、しかも安上がり」と思えるものを開発し、投入していくことになる。「新市場型破壊」であっても「ローエンド型破壊」であっても、スタート時点では、主要顧客からみると性能や品質が低すぎて魅力的ではないわけだが、時間とともに徐々に「持続的イノベーション」を積み重ねていけば、次第に、主要顧客のニーズにマッチするようになってくる。一方、主要顧客を対象としていた既存の製品・サービスは、持続的イノベーションを繰り返すなかで「過剰性能・過剰品質」の領域に到達してしまい、多くの過剰性能・過剰品質が主要顧客にとって必要のないものになってしまう。そこで、多くの顧客が破壊型製品・サービスに乗り換えることで、マーケットの主役が交代することになるのである。


玉田の提唱する第3のアプローチは、破壊的イノベーションではなく、本来なら破壊型イノベーションに敗れてしまう持続的イノベーションである。しかし、ここで注目すべきは、製品やサービスが変わる「プロダクト・イノベーション」でも、つくる方法や届ける方法が変わる「プロセス・イノベーション」でもなく、顧客の製品やサービスに対する認識が変わる「メンタルモデル・イノベーション」を活用することである。顧客の認識が変化すると、たとえ製品やサービスが変化しなくても、顧客がそれらを消費した際に感じる「価値」を増大させることが可能になる。そのような価値をつくりだしつつ、伸ばしていくような持続的イノベーションが有効であろう。