石田(2015)は、しゃべるのが苦手であったり、内向的な性格であったりしても仕事で成果を出すことができるコミュニケーション・テクニックを提唱している。その中の1つが、「マイナス+ダブル・プラス法」である。これは、言いにくいこと(マイナスなこと)を伝えざるをえない状況のとき、マイナス要因を先に話して、その後にプラスの要因の話を1つだけでなく2つ持ってくることで、結果的に相手のプラスの印象を強く与えることができる方法である。例えば「お値段は少々高いですが、この商品は快適です。しかも10年間使えます」といった具合に説明する。
別のテクニックとして石田は、「BIGYES+クエスチョン法」も紹介している。これは、言いにくいが相手に反論したいとき、最初に相手の話を「YES(確かにそうですね!)」と強く肯定することで、相手にソフトな印象を与え、話し合いがスムーズにいくようにしたうえで、質問を投げかけることによって相手に判断を預ける方法である。例えば、「はい、確かにおっしゃるとおりです。A案はイメージもいいですよね」と肯定したうえで、「ただ、B案も他社に前例がなく、面白い案だと思うのですがどうでしょうか」と「クエスチョン」の形で投げかける。
また、誰かに何かお願いをしたり、断りを入れる必要がある場合は「クッションワード」が有効だと石田は説く。クッションワードによって相手に対して直接的な表現を避け、丁寧で優しい印象を与えることができるという。例えば、依頼をするときには「申し訳ございませんが」「恐れいりますが」「差し支えなければ」「ご多忙中とは存じますが」などのクッションワードを、断るときには「せっかくですが」「あいにくですが」「申し上げにくいのですが」「お気持ちはありがたいのですが」などのクッションワードを使うのがよいという。
石田は「しゃべらない雑談力」として、「メンタルアドバンテージ法」「ワンヴォーグ法」「アウトビュー法」も紹介する。メンタルアドバンテージ法とは、挨拶などを自分から先に行うことで、先手を打って心理的に有利な立場に立つことである。相手よりも心理的に有利な立場に立つことによって、その先の会話の主導権を握ることができるという。ワンヴォーグ法とは、1つまたはそれ以上の事項を毎日欠かさずチェックすることで雑談のネタを集めておく方法である。雑談の得意分野を作ることで相手に物知りだと思ってもらえたり話がはずむようになるという。アウトビュー法は、相手と目が合うと緊張したり気まずかったりする場合、話題を変えながらさりげなく視線をずらす方法である。
しゃべらなくても親しみを持たてるための「3つのA」というのもある。「あいさつ(挨拶)、あいづち(相槌)、あいきょう(愛嬌)」である。挨拶はコミュニケーションのはじまりであり、円滑な人間関係を作っていくきっかけとなる。相槌は、「自分のことを受け入れてもらいたい」という人間の自己承認欲求を満たし、自分に共感してくれる相手に親しみや好感を抱くことにつながる。愛嬌は「素直なこと」「笑顔」を基本とするもので、愛嬌があれば「無茶をいうけど憎めない」とか「手伝ってやるか」という気にさせる効果があるという。