私たちがキャリアを成功させるために身につけるべきものは何か。リーダーシップと聞くと耳障りが良く、多くの人がリーダーシップを学ぼうとするだろう。しかし、権力と聞くと、多くの人が眉を顰め、そのトピックから遠ざかろうとするだろう。でも、フェファー (2023)によれば、権力の法則を学び、実践することには高い即効性がある。彼は権力は成功への鍵であると喝破する。権力は万能ツールなので、使い方さえ身につければ、それを使って素晴らしいことも、身の毛がよだつ恐ろしいことも、その中間の全てのこともできる。重要なのは、権力を良いことに使うためには、良い人に権力を与えなくてはならないことだというのである。つまり、権力の法則を学んで身につけることは役にたつ成功の鍵であるが、権力をどう使うかは次元の異なる話である。法律でも医術でも、世の中の人々を助ける強力なツールであると同時に、悪用されれば人々を害することさえあるのと同じである。
フェファーによれば、スタンフォード・ビジネススクールのモットーは「人生を変え、組織を変え、世界を変えよう」である。だが、変化を起こすには、権力が欠かせない。権力や影響力を持たずに何かを変えられるならそんな容易いことはないと彼は言う。変化を起こすための第一歩は、自分自身や自分の味方が、わずかな力で桁違いに大きな効果をあげられる「テコ」のような権力の座につくことである。フェファーは、社会科学の膨大な研究成果に裏付けられた法則やルールを紹介し、実際に役にたつ現実的な見方を提供する。政治的スキルと政治行動は出世に大きく役立つことは研究でも明らかになっている。その上で、官民問わずあらゆる組織を動かしている力学や駆け引きについて理解を深め、不本意な異動や解雇の憂き目に遭うことのないように、必要な知識で武装してほしいと助言する。
フェファーが説く権力の法則は7つに分類される。法則1は「自分の殻を抜け出せ」である。これは、権力を悪い、汚いとみなさないで、何が何でも成功するという決意を固めたら権力から逃げないということである。権力がない人のように振る舞えばいつまで経っても権力を得られないから、もし自分自身がそのような性質を持っていたら、あるいはそれが自分らしさだと思っているとしたら、その殻から抜け出して、目標を達成するための踏み台となる権力基盤を築きはじめよというメッセージである。法則2は「ルールを破れ」である。ルールや社会規範を破ることは権力を生む。そもそも既存のルールは権力者に有利にできている。なぜなら、多くのルールや社会の常識は権力者が権力を維持するために儲けたものだからだ。だから、ルール破りや常識破りは社会変革である。また、ルールを破る人は権力を持っているように見えるという事実もある。
法則3は「権力を演出せよ」である。これは一言でいえば、見た目は出世を左右するということである。例えば、力強い外見や振る舞いに対する印象に対して、人間は不合理であったとしても本能的で無意識的に権力を感じとった反応をすることがわかっている。また、根拠がなくても自信を示すことは大切だし、ボディランゲージで力を誇示することや力強い話し方をすることが有効であることもわかっている。であるから、いろんな方法で外見の魅力を高め、権力や影響力を誇示することが有効であることがわかる。それを踏まえ、自分は誰に売り込む必要があるのか、そしてその人々は自分に何を求め、必要としているのかを見極めることが重要だとフェファーはいう。
法則4は「強力なパーソナルブランドを確立せよ」である。そのためには、自分の物語を用意し、繰り返し語ることだという。また、身なりや外見を含め、自分のスタイルを確立し、ためらうことなく手を替え品を替え知名度を上げることに努めることである。自分を売り込むことに尻込みする人は多いが、自分の物語を語らなければ自分の功績は分かってくれないとフェファーは説く。法則5は「ネットワークをつくれ」である。役に立つ人との繋がりに十分に時間をかけることが大切だという。とりわけ「弱い繋がりを増やす」「仲介役になる」「ネットワークの中心に位置する」「価値あるものを提供する」といったネットワークづくりの4原則を実践するのが良い。
法則6は「権力を活用せよ」である。権力は使うことで枯渇するものではなく、使えば使うほど益々権力が盤石になるという。であるから、権力を手に入れたからには素早く行使して成果を上げることが重要である。例えば、権力を使って味方を引き入れ、敵を追い出す。また、権力があり、それを使う意志があることを見せつける。そして、権力を持ち続けるための体制を作るのである。そして最後の法則7は「成功すれば(ほぼ)すべてが許される」である。権力が失墜することはないわけではないが、権威ある組織と関わりをもち、自分の評判を高める物語を語り続ければ、一貫性効果のおかげで権力は正当化、合理化、賞嘆され、権力がさらなる権力を呼ぶという。