スーパーボスになる方法

フィンケルシュタイン(2016)によれば、「スーパーボス」とは、突出した人を見つけて育てる最強指導者を指す。そして、ほぼすべての業界で、このような偉大なコーチ、才能の発掘者、リーダーシップの教師として活躍するスーパーボスが存在すると指摘している。スーパーボスには多種多様な人がいるが、フィンケルシュタインは、その中でも共通する特徴を見つけ出し、それを、スーパーボスの戦略集およびスーパーボスになる方法としてまとめている。


まず、スーパーボスは「特別な何か」を持っている人材を見つけ、雇い入れる。例えば「ずば抜けた知性」「創造力」「高い柔軟性」などの「特別な何か」を持っている人材を見つけると、驚くようなことまでして彼らを獲得しようとする。そして、そのようにして獲得した優秀な人材に、限界を超えさせる。スーパーボスは、部下にたいして、ただ素晴らしいだけではなく、ずば抜けて素晴らしい成果を求める。そのために部下に自信を植え付け、やる気を起させる。活力のあるビジョンを設定し、時間をかけてそれを定着させる。その結果、スーパーボスの部下は時間を忘れて仕事に打ち込むのだとフィンケルシュタインはいう。


スーパーボスは頑固なのに柔軟である。つまり、明確でぶれないビジョンと変化への柔軟性による絶え間ないイノベーションを両立している。例えば、部下から新しいアイデアを絶えず引き出し、その過程でビジネスを成功に近づける。つまり、組織の「目的」「ゆずれないビジョン」は守りつつも、「手段」はあらゆる場面で改善するという変化重視のマインドセットを組み込む。そのため、部下に対して常にリスクを取ってルールを破れと奨励し、新しい挑戦をはばむ恐怖心を取り除く。そして過去の成功にしがみつかせない。こうして、スーパーボスのもとに創造的な人材が迎え入れられ、経験を共有して柔軟性が高まり、柔軟性重視の文化が根付き、究極的にはイノベーションと成長が継続するのだとフィンケルシュタインは説明する。


さらに、スーパーボスはビジネスのやり方として師弟関係を採用しているという。ふつうのボスよりも部下の成長に対して個人的な責任を大きく取り、部下の方もスーパーボスからの注目と指示を多く期待する。部下やチームのメンバーとの距離を縮めることに腐心し、単純に部下のそばにいて知り合いになり、引き込む。つまり、スーパーボスは現場に驚くほど深入りして部下とともに働き、行動の見本を示すと同時に部下を導くのである。このような師弟関係が可能になるのは、スーパーボス本人が「師匠」としてその道に精通していて部下に伝える教訓を豊富に持っているからである。


スーパーボスは細部を見ながら部下に任せる。完全に権限を委譲し、普通の上司がためらうほどの徹底ぶりで権威を手放し監視をやめるので、部下は次の高みに速く行くよう常に促される。スーパーボスは口出しせずに監督・統制する巧みなスキルを持っているのである。最初に絶対的なビジョンを示してゴールを明確にしたら、あとは一歩下がって成り行きを見守る。順調に進めば状況にしっかりと注意を払いつつそのまま続けさせるし、思ったように事が運ばなければ迷わず介入して方向修正するのでる。


さらにスーパーボスは部下同士を競わせると同時に助け合わせる。つまり、チームに強い競争心を植え付けつつも、部下のあいだに団結の精神が根付くようメッセージを送っているというのである。高度な協力関係と意義のある競争関係は矛盾するものではなくむしろ相乗効果があるというわけである。スーパーボスは、部下のあいだに一種の内部者意識を生み出すために、これほど特別な逸材がそろっている集団はほかにないと繰り返し言い聞かせる。そして、競争意識を刺激し、成長の手助けをしてあげることで、部下が互いに成長の手助けをしあうということである。


逸材は必ず頭角を現しして辞めていく。しかし、スーパーボスの部下は巣立っても完全には離れず、スーパーボスのクラブの永久会員になる。つまり、優秀な元部下のネットワークができるというわけである。そしてそれは、元従業員、顧客、サプライヤーなどの関係者が参加する「拡大家族」に等しい。スーパーボスのネットワークは、元部下が数年、数十年たってもスーパーボスに抱く深い感情のつながりの上に成り立っている。そしてスーパーボスは元社員に対しても親のように世話を焼く。このようにして、スーパーボスはキャリアを通じて「プラットフォーム」を磨き上げる。このようなプラットフォームすなわち業界でのノウハウやビジネスモデルを部下が利用するのである。