シーリグ(2016)は、自分が「こうありたい」と思い描く未来にたどりつくためには、まず「起業家的心構え」が重要だと説く。起業家的態度とは、「チャンスは身のまわりにあふれていて、自分次第で運は拓ける」と考える態度である。必ずしも実際に会社を興すような人のみに有用なものではなく、どのような仕事、生活を送ろうとも、すべての人に有用なのだというわけである。世の中の常識や思い込みは疑ってよい。快適な場所から離れ、失敗することを厭わず、不可能なことなどないと呑んでかかり、輝くためにあらゆるチャンスを活かすようにすれば、限りない可能性が広がるとシーリグはいうのである。
また、夢を実現するためには、途中でぶつからざるをえない問題を解決し、チャンスを活かすためのツールが必要である。そしてシーリグが今回強調しているのが「ひらめきを形にするための明確なロードマップ」である。これは、思いついたアイデアを実現するための、誰にでも役に立つスキルである。シーリグは、このフレームワークを「インベンション・サイクル」と名付けている。そのプロセスは、想像力がクリエイティビティを生み、クリエイティビティがイノベーションにつながり、イノベーションが起業家精神を呼び起こす、そしてそれが新たな想像力につながる、・・・というものである。ここでいう想像力とは「存在していないものをイメージする力」であり、クリエイティビティとは「想像力を駆使して課題を解決する力」であり、イノベーションとは「クリエイティビティを発揮して独創的な解決策を編み出すこと」であり、起業家精神とは「イノベーションを活用してユニークなアイデアを形にし、ほかの人たちの想像力をかきたてること」である。
まず、想像力に必要なのは、好奇心を持つことだとシーリグはいう。想像力を養うためには、何かひとつのことにどっぷりと浸かってみる。自分から積極的に関わっていき、とにかくとことんやってみる。どんなことでも興味をもって取り組みさえすれば面白くなる。深く知れば知るほど、情熱をもち、のめり込むようになる。好奇心をもつことで、ぱっと見ただけではわからなかったことが見え、チャンスに気づく。そして、頭の中で今あるものに代わるアイデアを思い描くことである。さらに、想像力を駆使して大胆な未来を思い描く。自分の経験と結び付けるかたちで明確なビジョンを持つことの重要性もシーリグは指摘する。そのような想像力が、クリエイティビティにつながるというわけである。
次に、クリエイティビティを養うためには、やる気を高め、実験を繰り返しながら課題を解決しようとすることが必要だとシーリグはいう。想像力を駆使した明確なビジョンは、使命感、目的、自己選択感を高め、やる気の向上につながるだろう。そして、絶対に問題を解決するのだという意欲が、効果的な解決法を探して、さまざまな方法を試してみようという行動につながる。つまり、意欲が実験につながる。そして、実験すればデータが集まり、それをみてさらに意欲が掻き立てられる。そしてその意欲が新たな実験につながるという循環になっていくとシーリグはいう。こうしてインスピレーションという小さな種が、大きなアイデアに育っていく。
そして、イノベーションを起こすには、フォーカスすること、状況を捉え直してユニークな解決策を生み出すことが必要だとシーリグはいう。目標を達成するためには、時間と心をそこに集中させなければならない。そのためには、集中するための時間を捻出することが必要である。例えば、緊急性はなくても重要な課題に取り組む時間を確保する。自分がかかえている活動の一部を捨ててしまったり、他の人に渡したり、しばらく放置する。集中して何を考えるかという、思考を意識することも重要である。そして、同じ状況であっても、柔軟に思考を変えることによって、異なるフレームを用いて眺めることにより、危機がチャンスに変わったり、視野を広げる機会になるとシーリグはいう。
インベンションサイクルの最後のステップである起業家精神を養うには、粘り強く続けることと、周りの人を巻き込むことが必要だとシーリグはいう。粘り強さとは、他の人ならやめてしまうところで満足せず、それ以上の高い成果を追い求める「不屈の精神」である。長期的な目標に向けて、興味を持ち続け、努力しつづけられる能力だといってよい。前例のない大胆なアイデアである場合、徹底的に叩かれ、死の寸前まで追い詰められることもある。その際に、不屈の精神が大切なわけである。不屈の精神が、あらゆる分野で成功のカギになっているというのである。十分大胆でありながら、目標を達成できる着実な「歩幅」を保つ。そして、身のまわりの資源を活用する。そして、物語をきかせて周りを巻き込むのである。当人が、それをしたくなるように、やる気を引き出す。そのために「集中力」「やさしさ」「威厳」を伴う「カリスマ性」を身に着けることも大切だという。