ビジネスモデルのニューパラダイム

長沼(2015)は、2025年のビジネスモデルと称して、次の社会の輪郭、次世代のビジネスモデル、ロボット時代の哲学的共通基盤などについて論じている。長沼によれば、今、経済は新たパラダイムの入り口にある。資本主義は格差を広げつつけ、ビジネスは短期決戦となりギャンブル化しつつあるなかで、共有経済圏、贈与経済、取引コスト・限界コストゼロ社会の兆しが見えてきている。これらの多くは情報技術をはじめとする急速な技術革新によってもたらされたといってよいだろう。


そのような中で長沼は、今後ビジネスモデルの全要素が変化すると予言する。まず、利益の最大化を目指してきたビジネスモデルが、社会的な影響力や貢献価値を高めていくことを目指すようになるという。これは、コストゼロ社会になっていくのでビジネスモデルの利益化を急ぐ必要がなくなることに関連している。つまり、限りなく低いコストで多くの人々に影響を与えるようなビジネスモデルを作っていけば、多くの人々にとってはタダ同然の価値あるサービスであっても、後になってから一部のユーザーからの支払いだけでもビジネスを持続させることが可能な利益が生まれてくるようなケースを示唆している。


次に、ビジネスモデルを支える人材は、従業員からクラウドソーシングに代わると長沼は予測する。人間ではなく、ロボットへの継続課金やロボットに外注するボットソーシングも将来活用されることになるだろう。また、顧客に提供するものは、標準品から個別品になっていくという。同じ商品を何個も作り、在庫して販売するという大量生産のモデルは、個々人のニーズに合わせたオーダーメイド型のモデルに代わっていくということである。物流についても大きな変化が見込まれる。まず、必ずオンデマンドの要素が入り、3DプリンタやIoTなどの普及で地産地消が可能になる物流、顧客が自ら組み立てるなどの物流が可能となり、さらに群衆が物流に参加するクラウドシッピングなども増加していくであろう。これは、最終製品を運ぶ代わりにデジタルデータを運び、現場で最終製品を作る、通勤客など定期的に移動している人々を利用する、などのアイデアから生まれるものである。


利用モデルについては、モノを売って買った顧客が所有する「所有モデル」から、共有資産にアクセスして利用する「利用モデル」に変化するだろうと長沼はいう。これは、モノの消費の考え方から、モノに付随している便益の直接的な消費を意味している。本来顧客が欲しいのは便益であるから、モノの所有を介さずにそれを消費できるならばそのほうがよいというわけである。それから、コストゼロ社会、共有経済が進むにつれて、人が持つ24時間という有限性を奪い合う競争にビジネスモデルが変化していくことから、マーケットシェアではなくマインドシェアが重要になるという。同じ製品カテゴリーのマーケットでのシェアはあまり重要でなくなるということである。そのため、顧客へのアプローチは、単純に顧客に買わせる、消費させるのではなく、「好きになってもらう」ことが何よりも大切になると長沼は指摘する。


最後に、企業もクローズドカンパニーからオープンカンパニーに移行すると長沼は予測する。これにより、社会に対して真の影響力や価値をもたらすソーシャル・イノベーションが加速するというのである。オープンプラットフォームを構築することで参加者が増えれば、ビジネスは急速に拡大するというわけである。上記のような予測を踏まえ、次世代のビジネスモデルの実現に向けた次のようないくつかのアドバイスを提示している。

  • 現在行っている業務の中で、ロボットができるところは極力ロボットに任せる。
  • これまでクローズにしていたところをオープンにすることを検討する。
  • 共有プラットフォームを構築し、共有型・継続課金モデルを検討する。
  • 高付加価値部分を除いたビジネスプロセスのクラウドソーシングを検討する。
  • 仕事は常にボットソーシングありきの発想で進める。
  • 自社が地域のマイクロファクトリーになれる可能性を探る。