ストーリーは人を突き動かす原動力

神田(2014)は、ストーリーは「人を突き動かす原動力」だと論じる。新しい希望のストーリーを生み出すことにより、組織も人も活性化し、消費も活性化するという。例えば、企業が繁栄するためには、人々がワクワクするような未来を描いた物語をつくることが重要な鍵だという。また、顧客がヒーローになっていく物語を描けているかどうかが、売上に直結する重要な要素だともいう。それはなぜかというと、ストーリーが人間が生み出した最古・最高のテクノロジーだからだというのである。


ストーリーがなぜ最古・最高のテクノロジーなのかというと、優れたストーリーは「一度聞いたら忘れない」「複雑な概念をシンプルに伝えられる」「異なる視点で眺めはじめられる」「自分も関わりたいと思う」「まわりに伝えたくなる」という要素を含んでいるからである。これらが「人を突き動かす原動力」になるのである。しかも、人間なら誰しも「物語の力」を持っている。これらを使えるようになるだけで、新しい現実がラクラクとスタートするのだという。


神田は、ストーリーは「クリエイティブ、そしてロジカルな思考の双方が要求される、総合的知性の結晶」だという。それはなぜかというと、ストーリーとは、価値あるメッセージを文化や思想、世代の違いを超えた広範な対象に広めていくために、誰もが意味を感じられる共通イメージやメタファーを使って伝えていくクリエイティブな試みであるとともに、多数の視点がぶつかりあう複雑な内容を整理し、筋道をたて、わかりやすく伝えていくロジカルな試みでもあるからである。


神田が提唱する「フューチャーマッピング」は、ストーリー思考を身に付けるための方法である。フューチャーマッピングは、自分自身がヒーローになっていく物語の舞台である。物語を通じて自分の内面に深く入っていくことで、今まで気づくことがなかった個人の才能や組織のリソースを発見し、その才能・リソースが、課題達成に向けた行動により、表面に浮かび上がってくるときに、偶然の出来事が起こるという。その驚きをきっかけにフロー状態(仕事の夢中になる状態)が始まり、夢中になって目の前の課題に取り組んでいるうちに、必然の未来が実現するというのである。


ストーリー思考は、新しい時代に適応してくために、誰もがもっていた能力を急速に開花させることになると神田はいう。そして、私たちが「一生で成し遂げるべき、大切な仕事は何か?」という問いを立てる場合には、自分の本当の姿を、ストーリーという、現実との合わせ鏡の中に見出すだろうという。ストーリー思考を通じて自分で「発想」したことを、自分で「実行」し、「結果」を出す。すなわち、自分で思いついたことをカタチにしていくことは、まさに「思考を現実にするプロセス」であり、言いかたを変えれば「描いたストーリーに応じて、現実が動く」ことであり「思考が現実化する」ことである。