なぜ数学が役立つのか

私たちは小中高と、ほぼ義務的に算数、数学を勉強する(勉強させられる)。その渦中にいると、とりわけ受験対策で忙しくなるならば、何のために数学を勉強する必要があるのか考える余裕さえなくなるだろう。その点において、西成(2019)は、数学がいかに役立つ学問であるのかについてわかりやすく解説している。


そもそも数学の目的とは、世の中の課題を解決することにあると西成はいう。日常の「困りごと」をクリアするために数学は進化してきたのだというのである。例えば、数学の原点は、人々の「測りたい」という欲求にあるという。例えば、特定の場所から別の場所への距離を測りたいというように。このように、長さを知りたい、広さを知りたい、体積を知りたい、というのは、どんな人間にもある根源的な欲求だと西成は説く。


実際、場所の位置や距離などを、他者に感覚的に伝えてしまうと、コミュニケーション・ミスがおきやすい。その反面、数字を使って「測る」ことで、客観的かつ正確に相手に伝えられる。測ることができれば、おなじものを作れるようになるというように再現性が出てくるし、誰が見ても同じという意味で客観性が出てくるというわけである。つまり、西成によれば、数学の起源というのは、測量とか建築のようなもの、すなわち「図形」「幾何学」だということだ。ちなみに、数学は大きく「代数(数、式)」「解析(グラフ)」「幾何(図形)」に分けられると西成は説明する。


また、世の中の原理・原則を、客観的にとらえていくという面において、数学は自然科学の超基本であり土台である。つまり、数学は、私たちの文明を下支えしている。そのような意味でも、じっくり考えるスローな思考としての「緻密さ」が重要な数学は、先の見えない現代の思考体力をまんべんなく鍛えるに最適なツールだと西成はいう。


具体的には、数学を勉強することで、西成が分類する次のような思考体力「①自己駆動力(思考のエンジン)」「②多段思考力(粘り強く考え続ける力)」「③疑い力(自分の判断や答えを疑う力)」「④大局力(物事全体を俯瞰できる力)」「⑤場合分け力(多数の選択肢を正しく評価する力)」「⑥ジャンプ力(閃き)」が鍛えられると説く。そして、そのような思考体力をつけるためには、まず中学レベルの数学を十分理解することが大切だという。