プロ弁護士に学ぶ思考術

矢部(2007)は、自らのプロ弁護士としての経験から、物の考え方の7つのコンセプトとして次のものを挙げる。「具体的に考える」「オプションを発想する」「直視する」「共感する」「マサカを取り込む」「主体的に考える」「遠くを見る」。


「具体的に考える」とは、曖昧な事実を掘り下げ、具体的に、細密に、個別的な対応策を作り出すことだという。事実は法解釈をも左右する。時間の許す限り具体的な事実を解明しようとする心構えが大切だと説く。そして、事実に即して物事を考える「即物的思考」につなげるのである。


「オプションを発想する」とは、物事をもれなく考え、上下左右前後のあらゆる角度から、網羅的に多数の解決策を発想することである。弁護士の重要な脂質のトップが「オプション提案力」であり、「正解」よりも「選択肢」を求めるのである。豊かなオプションを発想するには、常識を捨て、極論を考えることが有用だと矢部は説く。深刻な問題に直面しても、漠然と悩むことを止め、現状でとりうるオプションを考えることに精神を集中することが決定的に重要だという。「不満を言うな。オプションを考えろ」ということである。


「直視する」とは、権威や伝統というフィルターを介さない見方である。「自分で考える力」「疑う力」でもある。先入観をまったく抜きにして真実を正しく見つめる、具体的な物に即して考えるという態度が重要であるという。「共感する」とは、反対意見にも耳を傾け、少数意見に学ぶ心構えである。共感性には他人の気持ちを自分のものとして感じられる「情緒的共感性」と、自分の問題解決に必要な限度で他人の立場に共感する「認知的共感性」が含まれるが、ビジネスでは少なくとも後者は必要だと矢部は言う。


「マサカを取り込む」とは、不運に対して合理的に備えることである。予想に反して状況が激変したり、思いもよらない裏切りなどはしばしば起こる。そのために、むだになるような準備も怠らず、二重三重の手を打っておく。状況変化を見ながら対応できるよう、あえて決定を遅らせる「ナマクラの発想」も重要だと説く。「現実はこれだ」と決め打ちしないことである。


「主体的に考える」とは、自主独立の気概を持って、「考える力」と「戦う力」を固く結ぶことである。戦いの場合、相手の状況に応じて臨機応変に打つ手を変えるためには、最初は「低姿勢」で臨むのがよいという。ルール破りの場外乱闘者に対しては、立ち向かう気概、気迫を持つ。人間の問題は人間の知恵で解決するしかない。「遠くを見る」とは、将来を洞察する力を養うということである。俯瞰思考を働かせながら、将来を洞察するために目の前に生起する小さなシグナルを読むのである。