大衆さえも操作しうる「二分法」の威力

矢部(2007)は、世間はとにかく短絡的で単純を好むと言い、単純化の最悪の例として「ヒトラーの二分法」を紹介する。それは、敵か味方か、右か左か、白か黒か、善か悪か、改革か抵抗か、というように、物事を二者択一の、いずれかに分類してしまう方法である。


二分法は、デマゴーグ(扇動政治家)が大衆を操作し、反対者を排除・粛正するために、歴史的にも繰り返し使われてきたと説明する。二分法は人間の本性に強烈に訴えるので、俗受けがしやすく、大衆にアピールしやすいのだという。複雑な現実を単純化し、二分法で大衆に提示するのである。


ヒトラーは、物事が単純に割り切れないことは知っていたが、大衆の感情を操作するために二分法の問いかけを意図的に使ったというわけである。しかも、ヒトラーは実は2つの選択肢を提示していない。誰でも正か不正かと問われれれば正を、真か偽かと問われれば、真を選ぶからである。ヒトラーが意図する方向に誘導するための見せかけの選択肢にすぎなかったのである。


二分法は分かりやすいので人を惹きつけるが、反対者を排除するから、社会は極端なほうに振れると矢部は指摘する。結果として社会は今蓮氏、民主主義が危殆に瀕するという。