インパクトのある仕事をするための編集思考

佐々木(2019)は、編集を「セレクト(選ぶ)」「コネクト(つなげる)」「プロモート(届ける)」「エンゲージ(深める)」の4つのステップによって、ヒト・モノ・コトの価値を高める行為だと整理し、すべてのビジネスパーソンが編集思考を身に着ければ、日本はもっと面白くなる、すなわち編集思考こそが、日本と日本人の未来を作ると指摘する。つまり、編集とは、ヒトやモノやコトのよいところを「外に出して」、何かとつなげて、新しい価値を「生み出す」手法であるから、あらゆる企業がイノベーションをお越し、新規事業を開発するための技術でもあり、あらゆる人々が自分らしいキャリアや人生を紡ぎ出すための道具なのだと論じる。

 

佐々木は、「経済×テクノロジー×文化」を軸に、横串で多彩な価値を生み出す編集思考を駆使する個人が増えることが、日本の希望になるという。「経済×テクノロジー×文化」は、「社会科学×自然科学×人文科学」とも置き換えられる。佐々木によれば、編集とは「素材の選び方、つなげ方、届け方を変えることによって価値を高める手法」だと定義できる。この定義は、冒頭で紹介した「セレクト(選ぶ)」「コネクト(つなげる)」「プロモート(届ける)」「エンゲージ(深める)」の4つのステップと関連している。

 

最初のステップである「セレクト(選ぶ)」では、他の人にはまだ見えていない価値を発掘するために、物事の良いところだけを見て惚れ抜き、惚れた対象を見極めるために、対象に惚れた「直感」を現場と論理と他人の目によってダブルチェックし、自分と共通性が高く、距離を近づけやすいタイプのものと、自分とはほとんど共有するものはないというものという両極をあえて取りに行くことの重要性を佐々木は指摘する。

 

次のステップである「コネクト(つなげる)」では、「古いもの」と「新しいもの」をつなげる、「縦への深堀り(専門性)」と「横展開(教養)」でつなげる、異業界や大企業とスタートアップなど文化的摩擦が大きいものどうしをつなげる、そして、アイデアを組織政治などによってつぶされないように利害関係をつなげることの重要性を佐々木は説く。

 

さらに次のステップの「プロモート(届ける)」では、実際に生まれたものをどう外に向けて表現するかを考え、適切なものを、適切な対象に、適切なタイミングで届ける方法を考える。その際、3つのTが重要だと佐々木はいう。1つ目のTは時間軸(timeline)で、絶妙なタイミングでうまくつなげた素材を届ける。2つ目は思想(Thought)で、たんなる思いつきではなく、深い思考を経て体系化された「ビッグアイデア」や「コンセプト」を届ける。スターバックスの「サードプレイス」が1つの例である。3つ目は、真実(Truth)で、嘘をつかないだけでなく、ありのままの姿を取り繕わずに伝えていく。

 

そして、最後のステップである「エンゲージ(深める)」では、顧客との関係を深めるサブスクリプションモデルのようなものを実現するために、4つのCというポイントがあると佐々木はいう。1つ目は、コミュニケーション(Communication)で、良質なコミュニケーションを通じて、2つ目のコミュニティ(Community)の形成につなげていく。リアルな場を持つなどして、関係性の深さと質を高めていく。3つ目が、一貫性(Consistency)で、エンゲージメントを高めるための信頼と共感を得るために、一貫性を大切にする。4つ目が、カジュアル(Casual)で、これからの世の中が、よりフラットで柔らかい関係がベースになることを踏まえる。

 

では、どうすれば私たちは、上記に挙げたような編集思考を身につけることができるのだろうか。それに関して佐々木は、「教養」「人脈」「パワー」の3つのリソースの獲得が重要だと論じる。教養とは、「最先端」と「普遍」の引き出しを多く持つことであり、自然科学の知+社会科学の知+人文科学の知を指す。つまり、「自然」と「社会」と「人間」をどれだけ深く知っているかということである。自然科学はつねにアップデートされるが、社会科学と人文科学は、普遍性が強く、古代からさして変わらない「人間」や「社会」の本質を見つめる必要があるという。

 

教養を現実に活かすための触媒となるのが、「人脈」だと佐々木はいう。とりわけ40歳を超えると、その最大の付加価値は「誰を知っているか」「無理を言っても仕事を助けてくれる知り合いがどれくらいいるか」になるという。人脈がないと、編集思考でよいアイデアを考えても、形にならないわけである。そのため、世代、業種、文化、性別を超えて、自分と異なる人とのネットワークを大切にすることが重要だという。そして、人脈とセットになるのがパワーであり、その源泉が権力と権威であるという。権力や権威があると、自ら決断して、他の人を動かすことができると佐々木は指摘する。

 

さらに佐々木は、「教養」「人脈」「パワー」を土台として編集思考を磨くために必要な行動として、「古典を読み込む」「歴史を血肉とする」「二文法を超越する」「アウェーに遠征する」「聞く力を磨く」「毒と冷静さを持つ」ことを挙げている。

文献

佐々木紀彦 2019「異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考」 NewsPicksパブリッシング