ミッション・マーケティングの本質

コトラー・カルタジャヤ・セティアワン(2010)は、マーケティング3.0というテーマのもと、ミッション・マーケティングあるいはミッション・ブランディングを提唱している。コトラーらによれば、消費者に企業や製品のミッションをマーケティングするためには、企業は「変化というミッション」を掲げ、それを軸に「感動的なストーリー」を描き、ミッションの達成に「消費者を参加させる」必要があると説く。ミッションを軸にしてストーリーを語るということは、メタファーに基づいてキャラクターとプロットを構築するということだという。そして、ストーリーが本物であると消費者に納得してもらうためにはブランドについての会話に消費者の参加が欠かせないということである。


優れたミッションというのは「消費者の生活を変えるビジネス観を打ち出す」ことだとコトラーらはいう。これは「変革や変貌や違いを生み出す」「普通でないビジネス」ということである。そのミッションを広げるためには人々を感動させるストーリーが必要である。例えば、スティーブ・ジョブズはビジネス史上もっともすばらしいストーリーテラーの1人だったといえる。マッキントッシュを、コンピューター産業を支配しようとするIBMの企てに対するアップルの反撃(よってマッキントッシュが唯一の希望の光)として描き出したり、人々がそれまでの全人生の音楽ライブラリーをポケットに入れて運べることをミッションとして描いたiPodの発売、音楽と電話とインターネットの結合として描き出したiPhoneである。もちろん、そういったストーリーが書き手から書き手へと伝わるさいに絶え間なく書き換えられていったという。


コトラーらによれば、ブランド・ストーリーにはキャラクター、プロット(筋書き)、メタファー(比喩)といった3つの重要な構成要素がある。優れたストーリー・プロットには、チャレンジ型(ヒーローが困難な敵を倒す)、コネクション型(この世に存在する断絶を埋める)、クリエイティブ型(新しい解決方法を生み出す)がある。また、そのさい、消費者の意識の根底にあるメタファーを明るみにする作業が有効である。例えば、7大メタファーとして、バランス、変化、旅行、容器、つながり、手段、コントロールがあるという。そしてキャラクターはストーリーの要である。


消費者の参加を促すのが「消費者エンパワーメント」である。ソーシャルメディア時代には人々は横につながっていく。ネットワークの力を利用することによって、消費者の会話のプラットフォームを提供したりする。例えば、ブランド・ストーリーを消費者が語り合ったり、製品の評価やコメントを語りあうような環境をつくるわけである。