営利企業は優れた非営利組織から学ぼう

ルブリン(2011)は、非営利組織が営利企業に教えられることはたくさんあるという。なぜかといえば「人材も、費用も、職場も、仕事相手も、すべて、少ないものから多くを生みだすのが非営利組織」だからである。たしかに、限られた資源を最大限に活用して大きな価値を生み出すのが経営の本質であろう。


ではその秘訣とは何か。ルブリンが第一に挙げるのが、事業への情熱である。「善いこと」するだけではダメである。組織の使命は「ものすごく大事なこと」「とても重要なこと」でなければならない。そしてそれは「1人ではできない」大きなことである。人はみな、何か大きなものや重要なものの1部になりたいと思っている。この世にとって決定的に重要なこと、世のため人のために成し遂げなくてはならない使命を、みなの力でやり抜こうとする情熱。これを組織メンバー全員でシェア(=共有)することが何よりも大切であると説くのである。使命だけでなく共に働く場、共に成長する場も共有する。そうすることでメンバーひとりひとりが、自分の仕事が「なにか大切なこと」へつながっていると感じ、それに大きな力を感じることができる。


そうなればおのずと、採用で最も重視すべきは「情熱」ということになる。ルブリンによれば、経験も専門知識ももちろん大切だが、情熱はもっと大切である。一流大学卒ですばらしい経験と知識をもった情熱のない人と、高校中退で経験も技術もないけれど情熱だけは人一倍ある人のどちらを採用するかと聞かれれば、迷うことなく後者を選ぶという。非営利組織には、組織の活動目的を信じ、利益よりも原理原則のために働く、理想に燃えた人々が集まってくる。当然、トップ(CEO)は、最高経営責任者ではなく、最高情熱責任者である。非営利組織には頭脳明晰で冷血で官僚的なトップはいない。活動への献身と情熱を身をもって示す人が先頭に立っているのだという。


職場が楽しいことも大切だとルブリンはいう。人々は楽しい仕事環境に惹かれ、そこで働き続けるからである。また、好きな肩書を与えることも有効であるという。人は高い肩書を求める。だったらあげればよいというわけだ。その人に合った、自分の価値を感じさせるような肩書を与えることだ。そして、全社的な目標と、それを達成するための個人の役割を明確にする。人々は、だれかの「ために」働くより、だれかと「ともに」働く方がよいという。なかなか手にはいらない「本物」の責任を与えることも重要だと説く。メンバーを信じて重要な仕事を任せることは、彼らにとってこのうえのない「ご褒美」となる。とくに若手は「責任」を糧にして成長していく。そして、親しみを込めて「ありがとう」という。


業務外でイベントに参加したり、仕事以外に仕事時間を作るのも新鮮で充実感のある体験を提供できる。また、人を評価するときには、仕事だけでなく、仕事以外のこともふくめて、人間全体を評価するという点も効果的だという。これはプライバシーを侵害するためではない。その人の価値を認め、その人を尊重するためである。そうすることで、メンバーも仕事と私生活のバランスをとることもできるとルブリンはいうのである。