松井(2012)は、社内政治は必要悪であり、逃げずに取り組むべきだという。人間は必ずしも理屈で動いてくれない。どんなに論理で説得しても感情で動くのが人間である。したがって、上司、部下、同僚たちの協力を取り付けようと思ったら、正論を吐いているだけではなかなか通用しないというのである。社内政治を避けているだけでは、自分の持つ影響力は誰か別の人に移り、自分の手柄はだれかほかの人の手柄になるなど、食い物にされるだけなのが実態である。よって、せめて自分の職の安定を守るためにも最低限の対処方法は知っておくべきだと説く。
そのためのコツとして松井が第一に挙げるのが「情報に通じておく」ということである。社内の情報に敏感になること。そして自分が生み出している情報の価値を知ることが社内政治に慣れていくための第一歩であるという。すると次第に自分や自分の部署の価値をアピールすることができたり、危機を察知し、身を守る手段を講じることができるようになるという。さらに、情報の通り道に自分の身を置くことが大切だともいう。社内のあちこちの部署に知り合いを作り、積極的に情報の収集をしたり、特定の情報に明るい人と仲良くなったりして教えてもらうことで、社内の力関係などが徐々にわかってくるし、自分の認知度を上げるためには誰にアピールすればよいのかが分かってくるという。また、自分や自分の部署の認知度がだんだん上がってくると、足を引っ張る人が必ず出てくるので、失敗に対するダメージ・コントロールを効果的に行うためにも、情報に通じておくことが必要だという。
次に、松井は、自分自身が情報発信者になっていくことは非常に大切だという。自分が何者であり、どんな仕事をしていて、どんな実績があるのか。自分の認知度を高めるためには、「器用貧乏」のような印象をもたれないよう、自分の「売り」を作っていく必要があるというわけである。特に、洗練された情報を発信していくためには、メールやホームページなどを社内マーケティングツールとして活用するのがよいという。善意にあふれている人を巧みに利用する人もいることから、余計な仕事を引き受けたりして単なる便利屋にならないためにも、自分や自分の部署の役割をきちんと定義しておくことが大切だというわけである。
時として身にかかる火の粉はふり払わねばならない。いわれのない難癖をつけられたときや、他人の失敗のスケープゴートにされそうなときなどは、全面対決をしなければならない。その場合には「私の本意ではないが、仕方がないからこうしますよ」と仁義を切ることも大切だという。いずれにせよ、そのときどきの政局にあまり振り回されず、自分の認知度を上げ、立ち位置を築いていくことがいちばん賢い社内政治との付き合い方なのだと松井は結論づけるのである。