意味のある仕事で毎日小さな前進を積み重ねることの重要性

アマビールとクレイマー(2017)は、私たちが働くうえで、クリエイティビティ、生産性の向上、コミットメントの増大、良い人間関係を生み出すために重要なのが、私たちの内面的な仕事経験(インナーワークライフ)を充実させることであるという。インナーワークライフを充実させることとはすなわち、ポジティブな感情状態を生み出し、内側から湧き出るモチベーションを高め、仲間や仕事そのものにワクワクしながら取り組むといったような知覚・感情・モチベーションの状態を作り出し維持することを意味する。インナーワークライフが充実すれば、私たちは生き生きと、クリエイティブに、生産的に、仲間と共に仕事に励むことができるわけである。組織にとってみれば、いかなる優れた戦略を有していたとしても、このような人々の活気あふれる働きぶりなしには成功はおぼつかないといえる。


そして、アマビールとクレイマーは、膨大な日記データを用いた学術研究の結果から、インナーワークライフを充実させるために最も重要なのが、「意味ある仕事で毎日小さな前進を積み重ねること」であると結論づけ、これを「進捗の法則(The Progress Principle)」と名付けている。意味のある仕事すなわちやりがいのある仕事に取り組むことが重要なのは明らかであるが、その仕事で大きな成果を出したりすることも重要である一方、どんなに小さなことでもよいから毎日少しずつ前に進んでいるという「前進感覚」がもっと大切であるというわけである。だが、注意しないといけないのは、逆に、日々との仕事で前に進んでいかない障害を経験すること、すなわち「停滞感覚」とか「後退感覚」は、前進感覚がインターワークライフを高めるよりももっと強く、インナーワークライフを悪化させるということである。


したがって、日々の仕事を行っていくうえで最も大切なのは、いかにして毎日、ちょっとずつ前進させるか、いかにして停滞感や後退感が生じるのを避けるかにある。これを実現させるために、アマビールとクレイマーによれば、前進感覚を生み出すための「触媒要素」「栄養素」と、停滞感や後退感を生み出す「阻害要素」「毒素」を紹介し、触媒要素と栄養素を増やし阻害要素と毒素を除去することで、日々の前進感覚を高め、インナーワークライフを充実させることができると主張する。


まず「進捗の法則」として、日々前進している感覚に寄与する「触媒要素」として、明確な目標の設定、仕事の自由度を高めること、リソースを提供すること、適切な時間を与えること、仕事を手助けすること、成功や失敗から学習すること、アイデアをどんどん出していくことを認めること、の7つを挙げている。これらの触媒要素が多いと、仕事における前進感覚を得やすくなり、前進感覚がインナーワークライフの充実につながる度合いが増すことになるという。逆に、日々前進している感覚を妨げる「阻害要素」として、人を大切にしアイデアを大切にする風土の欠如、コーディネーションの欠如、コミュニケーションの欠如を挙げている。次に、「栄養素」として、リスペクト(尊敬すること)、エンカレッジメント(励ますこと)、情緒面でのサポート、人間関係のつながり、の4つを挙げている。これらの栄養素が多ければ、人々は元気になり、仕事の前進感覚とインナーワークライフの充実感が得られるようになるという。逆に、人々から元気を奪う「毒素」として、人々への蔑視、情緒面の無視、敵意を挙げている。


なぜ、意味のある仕事で毎日小さな前進を積み重ねることの重要性を示す「進捗の法則」がそんなに協力な法則なのか。やりがいのある仕事について達成感を味わうことができれば、それは内側からくる喜びや元気につながる。日々少しでも前進するということは、自己最高記録を日々更新するようなもので、自己効力感(自信)を高めることにつながる。また、日々学習し、成長しているという成長感覚も得られる。内側から湧き出るモチベーションやポジティブな感情は、クリエイティビティを高める。やりがいのある仕事、自由度が大きい仕事で、クリエイティビティを発揮して創意工夫をし、試行錯誤で成功失敗から学習しながら日々前に進んでいくことによって生産性も高まれば、より仕事にのめり込むようになってくる。つまり、コミットメントやワークエンゲージメントが高まるということである。このように強力な進捗の法則を理解し、日々の仕事やマネジメントに役立てよう。