情景描写で心模様を描く

近藤(2010)によれば、文章は描写文と説明文、そして会話文と地の文がそれぞれの役割をいかんなく発揮し、たがいに補いあえば、その表現力は映像より勝るのではないかという。情景描写は、説明しにくい心模様を、イメージの作用とともに伝えることで、読み手を誘い込むテクニックである。夕暮れや雨は、言葉以上に心を伝えるのである。情景をしてその心を語らしめよ、ということである。


見たこと聞いたことを先に書くことだと近藤は言う。「思い」は、書き進めるうちに表現できる。五感で感じたもの、すなわち、見たこと、聞いたこと、嗅いだこと、ふれたこと、味わったことを書いてみる。


また近藤は、文章を書くということは、脳の長期記憶に蓄えられているおびただしい数の体験情報をどう引き出すかでもあると指摘する。つまり「ひらめき」の重要性である。文章を書くという創造上の必要が生じて目的意識的な意欲がわくと、ぱっとひらめいて、長期記憶の海から意味あるエピソードや言葉が引き上げられればしめたものである。


近藤自身は、ひらめきを得るために、文章に行き詰ったときには、エッセイや対談集を手に取る、街をぶらぶら歩く、誰かと談笑する、という方法をとるという。歩いて五感を刺激するのはいい。人も歩けば題材に当たる。ひらめきも得られる。そしてそれが文章になる、のだそうだ。そのために、頭に浮かんだこと、降臨があったときはその場でメモをとっておくことが重要だという。