VUCA時代の問題発見法

細谷(2020)は、VUCAという言葉に代表される先の読めない時代に必要なのは「問題解決力」ではなく「問題発見力」だという。なぜならば、安定している時代にはある程度問題がわかっているので、その問題を解決する能力が重要だが、不確実性が上がれば上がるほど、そもそも何が問題なのかを考えることが必要になるからである。よって、例えば、「与えられた問題を上手に解く」のではなく、「そもそもこれは解くべき問題なのか」と考え、「解くべき問題はこちらである」と逆提案する能力が必要になってくるというのである。

 

細谷によれば、問題の多くは、時代の変化が旧来のものの捉え方と現実の間にギャップを生み出すことで生起する。例えば、VUCAによって変化している現実(例、デジタル化)が、昔から変わっていないルール(例、書類への押印)との間に歪みを生み出し、それが、あるべき理想像(例、デジタル技術の恩恵を受けた効率的な業務遂行)と歪んだ現実(例、業務遂行のために書類に押印が必要)とのギャップが問題となるわけである。そして、細谷は、こういった問題を解決するために具体的に変えるものを「変数」というアナロジーで表現している。

 

そこで、この変数という考え方を用いて、問題解決力と問題発見力の違いについて説明し、問題発見力を高めるためには「なぜ(Why)」を問うことが大切であることを解説しよう。まず、問題解決力とは、与えられた問題を解く力だと考えると、例えば以下のように問題が設定され、 a b_1が定数だとして、この問題において yを最大化する最適な変数 x_1の値を求めるというような作業が、問題解決のプロセスになぞらえることができる。

 y=a+b_1x_1
 

重要なのは、問題解決力は、「与えられた問題」を解決する能力であるから、下記の式は与えられたものとして疑うことをしないということである。 x_1が何であるべきかに集中するのであり、これは、What, When, Where, Whoといった、「個別対象」に着目しがちであることを示唆する。もちろん、問題解決のプロセスでは、 x_1を他の変数の組み合わせとして分解することで解きやすくはするだろう。しかし、最終的に最適な x_1を見つけ出すという問題の定義は変わらないのである。

 

では、上記の式に照らし合わせる場合、問題発見力とはどのように捉えることができるだろうか。細谷によれば、問題発見とは「新しい変数を考えること」である。であるから、上記の「与えられた問題」に対して、最適な x_1を探すことが本当に解くべき問題なのかと疑い、以下のように新しい変数 x_2を追加することが、解くべき問題を発見することだと考えられるのである。

 y=a+b_1x_1+b_2x_2  (b_1 \lt b_2)

 

上記のような式を見つけ出し、かつ、定数 b_2の値が b_1の値よりもはるかに大きい場合、最適な x_1を探しても yに対する効果は微々たることが予想されるため、それは解くべき問題ではないことが明らかになる。むしろ、最適な x_2を探すことが明らかに yを最大化することがわかるのである。これが問題発見力を示しており、上記の b_2x_2のように、いかにして適切な変数を見つけ出すかが重要なのである。

 

このような問題発見力にとって重要なのが、「なぜ(Why)」を問うことである。なぜ、 b_1x_1を追求する必要があるのか、他に重要な変数があるのではないのかと考えることで、新たな変数を探っていく。また、なぜ yに焦点を当てる必要があるのか、別の変数に焦点を当てるべきではないのかと考えることで、従属変数 yではなく従属変数 zを目的にすべきだというような発想に繋がるのである。

 

細谷は、Whyを問うことは、What, When, Where, Whoを問うことと本質的に異なることを指摘する。何故ならば、What, When, Where, Whoへの答えが、個別対象としての名詞の一言で終わるのに対して、Whyを問うことは、目的と手段の関係といったように「関係性」を問うことであるからである。であるから、What, When, Where, Whoが繰り返せないのに対して、Whyは、繰り返すことで関係性を拡張していくことができる。例えば、「問題とその原因」の関係について考え、さらに、「その原因をもたらす原因」というように、真の原因の発見(解くべき変数の発見)に迫っていくことができる。

 

よって、Whyを繰り返すことで「空に上がって」目先に見える事象を超える形で視野を広げていき、観点を様々に拡散させることで新しい変数を見つけ出すことができるのだと細谷は説明する。

文献

細谷功 2020「問題発見力を鍛える」(講談社現代新書)