知的複眼思考法

苅谷(2002)は、ありきたりの常識や紋切り型の考え方にとらわれずずに物事を考える「知的複眼思考法」を提唱している。「常識」にとらわれないためには、まずは何よりも、「ステレオタイプ」や「神話」から抜け出して、それを相対する視点を持つことが重要である。複眼思考とは、複数の視点を自由に行き来することで、ひとつの視点にとらわれれない相対化の思考法だと説明する。物事を一面的に捉えるのではなく、その複雑さを複数の視点から把握することを主眼としている。そうすることで「常識的」なものの見方にとどまって思考停止に陥ることなく、考えることを継続し、連鎖を生み出すような思考の運動を呼び起こそうとするものである。


では複眼思考を身につけるにはどうすればよいか。苅谷はまず、物事の二面性(多面性)に注目することを勧める。どのような事柄も、複数の要素間の関係によって、ひとつの現象として現れているという見方をし、関係のなかでものをとらえてみる。何かが「ある」という実体論的な見方ではなく、いろんなものの関係の中から浮かび上がってくる現象として関係論的に捉え、数字のようなシンボルや概念やルールがあたかも「実体」のように一人歩きするのを止める。そして、関係論的に物事を捉えるために「プロセス」として現象を見ることが重要だという。○○を主語として捉えず、○○になっていくプロセスとして捉えてみる。


次に「行為の意図せざる結果」に注目することを苅谷は勧める。つまり「逆説(パラドクス)の発見」である。始めは○○であった。にもかかわらず、○○になった、というように「にもかかわらず」がポイントである。これは、副産物、副作用への注目であり、抜け道の発見であり、小さな出来事の持つ大きな意味の発見であり、予言や予測が人々の行動にもたらす影響(予言の自己成就など)への洞察である。


最後に「問い自体を問うこと」の重要性を苅谷は指摘する。これは「メタの視点」である。「なぜそれが問題なのか」を問うことで、それを問題だと見なす視点が把握できる。ある問題を立てることで、隠れてしまう問題がないか考えてみる。また「ある問題を立てることで、誰が得をするのか」「その問題が解けたら、どうなるか」を考えてみる。