数学という学問の本質

中村・室井(2014)によれば、「数学」は人間理性が作り上げた最も古くて、最も深く、最も純粋な学問である。ざっと5000年の歴史がある中で、時を超え、民族や言葉の違いも乗り越え、同一の真理を追究しつづけてきた学問であるともいえる。このような数学という学問の本質は何か、そしてすでに発祥から5000年も経過したと思われる数学はこれからもさらに発展していく余地があるのだろうか。


これに関して中村・室井は、「数学」とは現実に存在するものから高度の「抽象化」「理想化」を行って得られる「数」や「直線」「平面」などを対象として、それらの間に成り立つ「普遍的」で「完璧」な関係を見つけた体系化したものであると述べる。例えば、数学では計算や図形の性質を調べたりするが、これらの目的は「代数法則」や「幾何学の定理」などを整理しておき、いつ誰がどのような目的に使っても正しい答えが得られるようにしておくことである。つまり、この世界に存在する普遍的な法則をきちんと捉え、それらの間に成り立つ法則を体系的にまとめておく。そのためには抽象化が必要であり、抽象度の最も高いものの1つが数概念なのである。


また、数学では現実に存在するものを単に抽象化するだけでなく、現実にあるものを人間の頭の中で理想化して「直線」や「平面」をつくる。これらの抽象概念は人間の頭の中にしかなく、現実の世界には存在しない。つまり、数学という学問は最も深い意味において「想像力の科学」ということもできるのである。つまり、「数学」は時代の要請に応えるために必要性に迫られて作られた学問であると同時に、「理想化」という操作を経て作られた学問でもあり、頭の中でつくられた学問であるといえるのである。


実際、数学は人類の科学の発展に寄与し、ありとあらゆる分野における「縁の下の力持ち」と捉えられている。なぜ数学がそれほどまでに大きな力を発揮できるのか。中村・室井によれば、それは現実世界をモデルとした「抽象化」と「理想化」に加え、古代ギリシアにおいて「証明の発見」があったからである。つまり、「抽象化」によってどんな場合にも使えるという「普遍性」を獲得し、「理想化」した相手に「証明」つきで理論を組み立てることによって、一度「正しい」と証明されればそれが永遠の命となるような「永遠性」を獲得したのである。


物理学などの自然科学は現実に起きる現象を分析する学問だから本質的に現実から逃れられないのに対して、数学は頭の中で作り上げた抽象概念を論理の働きで組み立てるものなので、人間理性の活躍でどんどん自分の道を進むことができるのだと中村・室井はいう。そして、これまでの数学の歴史を踏まえた見解として、数学は将来においてもいかなる限界をも乗り越えて発展を続けていくに違いないと中村・室井は主張するのである。